幻影のテールランプ

神無月 すず

第1話 夏 出会い

 サングラス越しの視線に囚われる。

『・・・よろしく。』と素っ気ない貴方の声に頷くことが精一杯だった。

 

 いつもの遊び仲間はとは違う、大人男性が目の前にいる。

 少しずらしたサングラスから覗く瞳は同級生男子とは違う鋭さがあって、冷たく見える雰囲気に一瞬怖いと感じたのに彼から視線を逸らすことが出来なかった。

 大人社会人組に合わせて、遊ぶのはいつも夜から朝までの時間。

 カラオケやドライブ、花火をしたり肝試しで心霊スポット巡りや宅飲み、時には酔った勢いで喧嘩もあったりと多少やらかしもあったけど、充実した時間夏休みを過ごしていた。

 そして会う度、口数の少ない彼にそっと視線を向けると仲間と談笑している最中にサングラスの奥、伏し目がちな彼が不意に見せる目を細めた笑顔に自分の胸がきゅっと締め付けらることが増えた。

 花火も肝試しも自然と目が彼の姿を追って、視線が合いそうになると突差に避けるように周りに目を向けて誤魔化した。

 そんな私のぎこちない態度に目敏く気づいた友人女子がお節介要らぬ世話をした結果、移動する時は彼が運転する車の助手席が私の指定席になった。


 遊びの連絡はいつも友人を介して集まっていたから仲間内でもほとんど直接連絡を取る人はいなかった。

 しかし、私が連絡先を教えていないこと知った友人によって修羅場私の中でが夜遊び帰りに待っていた。


 【今日はもう解散!】とまだ真夜中の時間に大人組の1人がみんなに声をかけてそれぞれ帰り支度を始めたのだけど、なぜかいつも一緒に帰るはずの友人が少し離れた位置から[今日は先輩の所行くから、ここで解散ね]とジェスチャーしたかと思ったら、先輩が乗っているバイクの後ろに跨り走り去ってしまった。

 あっという間の出来事に呆然とする私・・・走り去ったバイクのテールランプが遠くに見え始めたとき、私の肩を叩く指先が視界に入り振り返ると大人組社会人の1人で地毛が強めの天パなことから愛称ボンバーことボンさんが「家って南地区だよね?送らせるから・・・おーい!送迎頼むわ。」と視線を巡らせた先に声をかけたのは駐車場に向かう彼だった。


 ボンさんと彼の会話に口を出すタイミングを失い、戸惑う私に構うことなく「じゃ、よろしく。またね〜。」と手を振り、他の仲間達と去るボンさんの後ろ姿に縋るような目線を送ったのにチラ見されることも無く放置された私。

 車に乗り込んだ彼が運転席から視線で助手席に乗れと伝えてくる。

 これまでは友人か他の仲間が必ず同乗していたから彼と2人というこの初めての状況に少し頭痛か目眩がしたのは後日友人を〆ることで今は収めようなどと思っていた私自身を〆たくなる事態が起こるなんて。


 




後日、この出来事の顛末を知った友人の顔面に飼い猫パンチをしても感情が収まることはなかった。



 

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