結婚前夜の静かな夜Ⅲ

第28話

月の綺麗な結婚前夜、今も尚二人は綺麗な花に囲まれて座っている。レイラのすぐ目の前には、いまにも触れてしまいそうな位置にエレーナの瞳があった。


エレーナは大きな瞳を潤ませながら、じっとレイラの瞳を見つめ、縋るように尋ねる。


「ねえ、レイラ。最後の日くらいちゃんと答えてくれないと。永遠に最愛の人への告白の答えを聞けないまま、愛してもいない男性と生涯を共にしなければならないなんて、あまりにも可哀想だと思わない?」


「それは……」


「ねえ、レイラ……。お願いだから、気持ちを聞かせて……」


ついにエレーナが堪えられなくなり、そのまま倒れ込むようにして、レイラの胸に顔を埋めてワッと泣きだした。


「お嬢様……」


レイラのエプロンを引っ張ってワンワン泣き出したエレーナのことがもう見ていられなかった。


奥様との誓いを立ててから、ずっと我慢に我慢を重ねたエレーナ本来の子供っぽい無邪気で素直な部分が全てあふれ出たみたいに、感情を爆発させていた。


どうせもう最後の日なのだ。告白に答えないなんてあまりにも可哀想というエレーナの言い分に納得したのもあるし、それ以上にレイラ自身がエレーナに気持ちを打ち明けられないまま離れ離れになるという状況に耐えられなかった。


どうせ、どう答えたって明日このお屋敷からエレーナが出て行き、二度と会うことができないという事実は変わらないのだ。


もう、今日でエレーナとの主従関係は終わってしまうのだ……。


そう思ってレイラは一思いに言った。


もう、どうにでもなればいい!

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