第2部
変化
第19話
エレーナがネコを持ち込んで大騒ぎになった日から数か月の月日が経った。
初めはどうなることかと思ったが、奥様との間で交わした約束をエレーナはしっかりと守り、本当に淑女としての振る舞いを続けていた。あれほど毎日のように何らかの問題を起こしていたエレーナがこんなにも大人しくなるなんてと、レイラは感心した。
今もダイニングでエレーナは紅茶を飲んでいるのだが、ついこの間まではマナーなんて気にせず、持ち手を無視して両手でカップを持ってがさつに飲んでいたのに、今ではカップの持ち手をきちんと持って、少しの音も立てずに優雅に飲んでいる。
つい先日までは何度も注意したのにまったく治らなかったというのに、それほど奥様からの注意は恐ろしかったのであろうか。
そんなことを考えていると、レイラは先輩のメイドから呼びつけられる。今まではエレーナの面倒を見るのに忙しくて、その他の家事をこなす時間が少なかったが、ここのところはエレーナがおとなしくなってくれたおかげで、そちらの仕事に回れることも多くなった。
「ねえ、レイラさん。少しこちらを手伝ってくださいな」
「ええ、ただいま参ります」
返事をした後にエレーナの方に向く。
「では、お嬢様。わたしは少し席を外しますね」
「いつわたしのところに戻って来られるようになるのかしら?」
「そうですね……。いつになるかはわかりませんが、遅くなるかと。多分お月様が空に上がって暫く経った後だと思います」
「そう……」
エレーナが俯きながらがっかりしたような声で返事をする。レイラがお手伝いへと向かうより先にエレーナが席を立ち、自室へと戻っていった。
仕事がいつ終わるか尋ねられても、レイラにはわからなかった。ジェミナリー家のような大きな家では仕事なんて山のようにあるのだから。
なんだか寂しそうなエレーナの様子が気にはなったが、たくさんある仕事をこなしていっているうちに、いつの間にかそんなことはすっかり忘れていた。
忙しい日々は続いていき、日に日に2人が一緒にいられる時間は減っていった。
これまでに無いくらいにエレーナはお淑やかになり、貴族令嬢としての振る舞いを
本心では、レイラは昔みたいにエレーナと一緒にいたいという感情を強く抱いていたけれど、メイドとしてのレイラの役割はしっかりとエレーナを立派な淑女として独り立ちさせてあげること。せっかく成長しようとしているエレーナの邪魔をするわけにはいかなかった。
そうやって別々の日々を過ごしていき、いつしか2人が顔を合わすのは朝と晩のほんの数分間の限られた時間だけになってしまっていた。
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