5 ちいサポ会のお暇
地域サポート会が結成されてから早数日、俺たちメンバーはかなり忙しくなっていた……かと思いきや、全員暇を持て余していた。何せ、仕事が来ないのだ。
もとからさほど興味を持たれていなかったためか、今のところ依頼などは一つも来ていない。冷やかしさえも来ない。というかそれ以前に、クラスの奴らもみんな話題にさえしていない。話の流れで「そういや地域サポート会のさ~」とか言ってみても、毎回「あ……あぁ! あれな!」みたいな反応をされる。
つまり、みんなどうでもよすぎて存在を忘れている、ということである。これ程虚しいことは無い。
まぁぶっちゃけ俺も、メンバーになってなかったら存在を忘れてたと思うし、ある意味お互い様で、みんなのことを悪く言えない。てかなんとなく、こうなることも想像できた。
これは事前に聞かされていたことだが、地域サポート会は基本的に毎日集まりがある。場所はあの多目的ルームで、他の生徒が部活動をやっている時間にやる。ちなみにメンバーは俺を含め全員部活をやっていないため、これが部活のようになっている。雫先生曰く、この時間に舞い込んできた依頼についての説明や話し合いなどを行うらしい。
が、前述した通り、そういうのがひとっつも来てないため、今のところただ喋るか遊ぶか勉強するかして暇を潰し、適当な時間に帰る、という謎の集まりと化している。さっき部活なんて表現をしたが違うな。こんな何の生産性もない活動を部活と呼んだら、全国の部活で青春している学生たちから猛烈なブーイングをくらうだろう。
流石に我慢ならず「この集まりやる意味あるんですか」と雫先生に尋ねたところ「万が一、あの時間に何か来るかもしれないので……」と、申し訳なさそうに答えられた。ここでも何かしら大人の事情が絡んでいる風だった。
今日も暇になるんだろうなぁ……。そう考えながら扉を開けると、中には既に、唯奈と小春がいた。勉強しているっぽい。
「あっ、要さんだ! やっほー!」
「おー」
「冬樹君たちは?」
「あいつらは遅れるって。てか、何の勉強してるんだよ」
「えっとね……数学……」
俺が質問すると、小春がかなり億劫そうに答える。
「あんま乗り気じゃなさそうだな……」
「当たり前じゃん! 数学なんて……勉強する意味わかんない!!」
「落ち着けって……。唯奈が教えてるのか?」
「うん。小春のクラス、今度数学の小テストがあるみたいなんだけど、小春は数学が苦手だから、私が教えてるんだ」
「なるほどなぁ。あ、そういや、冬樹と秋人もそんなこと言ってたような……」
「そうなんだ。じゃあ、冬樹君たちも来たら、みんなで勉強会にする?」
「あー、俺は別にいいぞ。光も大丈夫だと思う。ただ肝心の一年がな……」
「あ~一緒だ~……」
ここ数日間、暇で暇でしょうがない日々が続いているが、悪いことばかりではない。
仕事関係の話は来ないが集まりは毎日ある、即ち、メンバーと交流する時間が十分にとれている、というわけになる。そのため、先日出会ったばかりの女子二人とも順調に仲良くなれているのだ。名前呼びにも慣れた。
正直、これには俺自身も驚いた。まさか俺が、女子相手に……というより、出会ったばかりの相手に、短期間でこんなに話せるようになるとは思わなかった。
元々閉鎖的な性格だし、人と打ち解けるにはかなり時間がかかる。そう思っていたが、俺も少しずつ、変われてきているのかもしれない。
と、廊下から複数の足音が聞こえてきた。たぶん、てか絶対あいつらだろうな。そう考えていると、扉が開いた。
「頼もーーーう!!」
「何で道場なんだよ……普通『お願いします』とかだろ」
「まぁ、秋人君らしいですけどね~」
秋人の天然行動に光が突っ込んで、冬樹がぬるっと間に入る。いつもの光景である。
光が、教科書とノートでいっぱいの机を一瞥し、唯奈に尋ねた。
「へぇ、数学の勉強してんのか」
「うん。あ、さっき、みんな集まったら一緒に勉強会したいなって要君と話してたんだけど、大丈夫かな」
「俺は別に構わねぇよ。丁度勉強したいって思ってたしな」
「本当? そっか、ありがとう」
「おう。あぁ、そういやお前ら、今度数学の小テストがあるって……おい逃げんな!」
勉強をしようとすると、勉強嫌いの一年組が逃げようとする。これもいつもの光景になりつつある。
「ちょっと二人とも! 逃げるとか卑怯じゃない? 勉強はちゃんとする! 学生の本業でしょ!」
こんなことを言っているが、小春も普段は逃げようとする一人だし、数分前までめっちゃ嫌がっていた。完全なブーメランである。
「え、でも、小春も最初は逃げようとしてたよね……?」
「んぐっ……それはそう、だけど……」
「ほらやっぱり! 小春ちゃんも人のこと言えないじゃないですか!」
「そーだそーだ! 自分のことだけ……! あの……あれ……何かこう、よいしょって……」
……どうやら、『棚に上げる』が出てこないらしい。仕方ない、教えてやるか。
「棚に上げる、か?」
「そうそれ!」
こういうのもよくある。いや普通出てくるだろ。
この不毛なやり取りがしばらく続いたあと、痺れを切らした光が遂に口を開いた。
「あのなぁ……ごちゃごちゃ言ってねぇで、まずは机に向かえ。ノー勉でテスト受ける気か? 大した点数取れなくて、困るのは自分だろ」
一年組が「うっ……」とうめき声をあげる。もうかなり効いているっぽいが、更にトドメをさす。
「お前らのこと、馬鹿だとは思ってたが……んな簡単なこともわかんねぇような馬鹿だったか? あ?」
うわぁ……相当ご立腹だなこりゃ……。何より、目つきが怖すぎる。あんな目で睨まれたら、蛇に睨まれた蛙の如く動けなくなるだろう。今だって、背筋が凍りそうだ。未だに慣れない。第一、今回俺関係ないのに……。
まぁでも、これはこいつなりの愛情の裏返しなわけで。
「そっ、そうですよね~……あはは~……」
「光ちゃ~ん……ちゃんとやるから、怒んないで……」
「ほんと光ちゃんって、唯ちゃんより厳しい……」
「はぁ……わかりゃいいんだよ。手伝いくらいはしてやる」
さすがは光。ツンが強めのツンデレ。本人の前で言ったら絶対に殴られるので言わないが。
さてと、俺もフォローに回るとするか。
それにしても、雫先生はまだ来ないのか。
いつもは、俺たちよりは遅れて来るものの、部活動の開始時刻には颯爽と現れる。それはもう爽やかに。実写の恋愛映画やドラマにありがちな、よくわからない後光や急に吹いた風を背負って現れる。
しかし今日は、時間がとっくに過ぎているのだ。わかりやすく言えば、遅刻だ。あの人は遅刻なんて滅多にしない。
もしかして……何かあったか? つい、最悪の事態を想像してしまう。いや待て、考えすぎだろう。きっと急な用事とかだよ。そう……だよな?
「なぁみんな、雫先生ってさ……」
俺がそう切り出しかけた直後、廊下から速い足音が聞こえてきた。
こちらに近づいてきている、ということは……。
「はぁっ……はぁっ……遅れました、申し訳……! うあっ!?」
「うおっ!? だ、大丈夫ですか……?」
やっぱり、雫先生だ! だが何故か、かなり息を切らしながら入ってきた。と、同時に、盛大にこけた。思わずこっちまでびっくりして、心配してしまった程だ。顔面めっちゃ強打してるし。
「あ、ありがとうございます……ご心配なく……格好悪いところをお見せしました……」
「へ、平気ならいいんですけど……」
「でも、何事もなくて良かったですね~、要さん!」
「ま、まぁな」
あークソ、心配してたことバレバレじゃねぇか……。
やっぱり冬樹には、色々と敵う気がしない。
「で、どうしてそんなに遅れたんですか? 何か用事ができたとか……」
「何か大変なことがあるなら、私たちも力になりたいです」
光と唯奈が雫先生に尋ねる。確かに、あの雫先生が遅刻した理由、気になるな。
「あぁ、そのことなのですが、特に悪い理由ではありません。ご安心を」
悪い理由ではない。それじゃあ何だ? まさか仕事が来たとか……まぁ、それはないか……。
「寧ろ良い理由かもしれません。初の仕事が来ました」
「なるほ……え?」
ん? 今何て言った? 仕事だって? 俺らに? この幽霊会に?
「へ? マジで!? よっしゃあ!!」
「やったぁ! ようやく仕事が出来る……!」
秋人と小春は素直に喜んでいる。が、俺はまだ信じられず、呆然としている。
「ま、マジなんですね? 本当に本当なんですよね? 騙してるなんてことは無いですよね??」
「んなわけ無いでしょ……」
「疑いすぎだろ……」
どうしても信じられない俺に、ツッコミを入れる冬樹と光。いや、だってさ……。
「要君のお気持ちもわかります。ずっと何も来ませんでしたし……。しかし、これは夢ではありません。現実です」
「……マジ、ですか」
「……マジ、です」
マジなのかー……。てか、雫先生が『マジ』とか言ってんの面白いな。普段なら、絶対使わないであろう言葉なのに。
「そんで、何やるんすか何やるんすか?」
「やっぱりボランティアとか?」
「まぁまぁ、二人とも。急かさないの」
「ふふ。では、今からお話ししますね」
遂にこの時が来たのか……。何だか、変に緊張してしまう。
「近くの小学校からのご依頼です。私たちの初仕事は、小春さんの言ったとおり、ボランティア活動です」
「ボランティア活動……か」
「なるほどー!」
あまりぶっ飛んだやつではなかったので、そこはよかった。寧ろ典型的なやつだ。まぁ最初だからな。
「皆さんにはそこの小学生の子たちと一緒に区のゴミ拾いをしていただきます」
「ほうほう」
「……そうですか」
一瞬、光が顔をしかめた気がするが、今は気にしないことにした。
手元に分けられた資料を見る。日時やスケジュールなどが事細かに記されてあった。
「あれ? ねぇ小春、これって……」
「そう、だよね……」
「どうかしたんですか?」
「あー、ううん、私たちが通ってたとこだな~って思って!」
「へー、そうだったんだ!」
「楽しみですね~、要さん!」
「……ああ」
冬樹たちが資料を見ながらわいわいしている中、俺はどことなく、漠然とした不安を感じていた。
……なんとなくだが、この初仕事、何事もなく終わる気がしない。大なり小なり、何かしらのトラブルかイベントかが起こりそう。根拠は全くないし、ただのフィーリングでしかないのだが。
そして、その予感は見事に的中してしまったのだ。
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