第13話「Between 出会い To 再会?」
武家屋敷の朝食は、質素な
その後は
そして軽い昼食を挟んで、一同は都の中をとあるお寺まで移動した。
「うーん、いかにも京都って感じだよなあ」
「ですね。
「カナミ、楽しそうだな」
「はいっ! 入院で学校生活は全て台無しになってしまって……少し、修学旅行というものに憧れてました。夢、
「まあ、元の時代に戻れれば、普通に進級しての修学旅行もあるだろうしな」
寺の敷地内は広く、かなりの力を持った宗派のようだ。
そして、庭の開けた区画に例の巨大な腕があり、周囲では僧侶が熱心にお経を唱えていた。どうやら鬼のために祈りを捧げているようで、それが終わると頼光が近付く。
はたから見ても、セツヤには青いロボットの腕にしか見えない。
今も切断面から覗くケーブルやチューブが、僅かにショートしながら
「住職、あとは我々で。お綱、
「まだ来てないようですわ。
「そっちはどうでもいい! それより、見てくれ……血が流れた様子はないが、この奇怪な状況は」
「やはり鬼は、我々人間とは根本的に違うようですわね」
二人は熱心に鬼の腕を検分し始めた。
それを黙って見てると、カナミもうずうずをおさえきれずに混ざってゆく。
あまり変なことを平安時代の人間に言わなきゃいいのだが、カナミなら大丈夫だろう。むしろ、カナミの暴走トークに付き合わされる頼光や綱が心配だった。
「むむ、お綱! 触れて見ろ、この質感……妙だな。木材や粘土ではない。
「なんだかむにむにとしてすべやかですわね。骨とも違うようですわ」
「プラスチックでもないみたいです。あ、プラスチックというのは油脂性の化合物質で……とにかく、わたしたち未來の人間から見てもわからない素材ばかりです」
「ふむ……カナミでもわからぬか。鬼の皮膚一つとっても、私たちにはわからぬことが多過ぎる」
「でも、
熱心に話し込んでは、鬼の剛腕をぐるぐる回ってあちこちを調べている。
それをぼんやりと眺めていると、不意に背後で豪快な声が響いた。
「おう! おうおうおう、おうっ! こいつが鬼の腕かあ! たまげたなあ!」
すぐ横に、ドスドスと足音を立てて
見上げるような長身からは、不思議と威圧感を感じない。
そう思って見てると、向こうも
「おっ、
「ど、どうも……
「ハッハッハ! 違いない! オレやお綱でも仕留め損ねた
自分で言っちゃうかなあと思ったが、確かに
「セツヤ、オレはな。先日の大江山での戦いでは不覚をとったのよ。天下無双と思い込んでいたが、いやはや、この世は広いものだ!」
「はあ……あ、でも、普通の鬼だったらやっつけられてたと思いますよ」
セツヤが言う意味は、鬼という架空の生物、伝承の魔物だったらの話だ。
これはどうみても、セツヤたちの時代の技術を
ゲートは
過去と現在が繋がるなら、その片方が未来である可能性だってあるのだ。
そんなことを考えていると、
「ふふ、あいかわらず
どこかで聞いたことがある声だ。
だが、少し飾って作った
それでも、振り返る金時の視線の先に、一人の女性が立っているのが見えた。
「おお! 安倍晴明殿か! これはこれは、久しいなあ」
「あいかわらずガキみたいなんだから、金時は」
「おいおい、そう
「褒めてないっての……はあ、それで?
――安倍晴明。
カナミがいうには、平安時代に活躍した稀代の
その晴明が、ちらりとセツヤを見た。
お面の向こうで、息を飲む気配を感じる。
だが、晴明はなにかを言いかけつつ、そのまま目の前を通り過ぎる。
「あれが、安倍晴明……男じゃ、ないのか」
「おっ、セツヤは知らんのか? 声の感じじゃ若い姉ちゃんのようだがな。ああ見えて何十年も生きてるらしい。しかも、本当に女なのか、その顔を見た者もいないってな」
「金時さん、あの狐のお面は」
「ああ、うちの大将がえらく嫌がってるがな。安倍晴明はさるやんごとなきお方と……狐との間に生まれたのだそうだ。信じられるか、セツヤ。狐だぜ? 狐!」
にわかには信じられないし、科学的にありえない。
だが、ここは未知と神秘が渦巻く平安時代だ。しかも、どこのものともわからぬ巨大ロボットが暴れまわってて、京の人たちはそれを鬼と呼んで恐れている。
狐のお面……心当たりはあるが、そんなことはない筈だ。
チギリならば、自分を見てあえて無視するなどありえない。
そう思えるくらいには、何故かセツヤはチギリに気に入られてるのだ。
ふと見れば、晴明は頼光たちに挨拶しながら近寄っている。
「ちょっと、頼光! 来てあげたわよ? で、これが鬼の腕? ふーん」
「げっ、安倍晴明! ……様。ど、どうも。この
「あ、そういうのいいわよ。ったく、あいかわらず源氏はやんちゃ坊主の巣窟ね。お綱、あんたも気をつけなさいよ? この
くすりと綱も笑っていた。
頼光はどうにも晴明が苦手らしく、やりにくそうな顔をしている。それをいいことに、晴明は「あんたのおしめを代えてやったのは我よ?」などと、グイグイ押してくる。なんだか、武家の
しかし、鬼の話となると誰もが真面目になる。
カナミも交えて四人は話し込むが、そこに金時は加わろうとしない。
聞けば、難しい話は苦手なのだという。
「鬼だろうが邪だろうが、オレは力任せにブッタ斬る! それだけよ!」
「なるほど……なんか、金太郎のイメージそのまんまですね」
「いめえじ、だあ? だが、まあ、オレとてもういい歳だ。いつまでもガキじゃいられねえ。それに、大将を補佐して
バリボリと頭をかきながら、金時は気持ちのいい笑みを浮かべる。
だが、その目は
「それに、人間相手にゃもう興味はねえ。やるなら怪異、もののけや
それは、どこか狂気にも似た闘争心だった。
そして、そういう状態の人間をセツヤの時代では、鬼と呼んだりもする。
足柄山の金太郎、坂田金時……今、セツヤの隣に鬼を狩る鬼が
そうこうしていると、ぽてぽてとカナミがこちらの方へと駆けてきた。
「セツヤ君、あのっ! とと、こちらの方は」
「ああ、さっき知り合ったんだ。坂田金時さん」
「なっ、なな、なんですとぉ!? あの、足柄山の金太郎! うわあ、ご本人さんに会えるなんて、夢みたいです。あ、はい、えと、わたしは
あわあわと焦って慌てて、カナミは言葉を噛んだ。
だが、気さくに笑って金時は歩み寄る。
セツヤより長身なカナミも、金時に並ばれると子供と大人だ。そして、金時は無造作に両手を伸べて、ひょいとカナミを持ち上げてしまう。そのまま自分の肩に座らせ、なんともさわやかな笑みを浮かべていた。
「お前さんも鬼火に乗って来たんだな? ガハハ、なんともかわいいじゃないか。今なら嫁にもらってやるが、どうだ!」
「はひぃ!? お、お嫁さんですか!? ちょ、ちょっと、それは……セツヤ君っ、助けてください! 歴史が変わってしまいます。……ま、まあ、そうはならなくても、よくないです!」
「いやあ、俺に言われてもなあ」
だが、カナミはなんだかにやけてまんざらでもない様子だ。
それがなんだか、セツヤにはあまり面白くない。
ようやく降ろしてもらったカナミは、思い出したように寺の奥を指さす。
「あ、あのっ! 安倍晴明さんがわたしたち二人にお話があるそうです」
「はぁ? あのばあさんが?」
「そんなこと言ったら蹴飛ばされますよ。ああ見えて短気なんですから」
「えっ? なんか、カナミはよく知ってる人なのか? 本だとそういうふうに書かれてるのか」
「いいえ……本物の安倍晴明さんは男性です。それより……ふふ、気付いてませんか?」
意味が分からない。
けど、確かに妙な懐かしさも感じた。
安倍晴明の声を聴いた時、気心知れた誰かのことが脳裏を
だが、晴明は接触してくるのを避けた。
きっと、隣に金時がいたからだろう。
そしてセツヤは再会する……意外と言えば意外な、当然と言えば当然な人物に。
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