第15話


私が1人恐怖で身体を震わせている間に、菅原くんが梓衣華ちゃんを呼びに行ったようだった。

私の元に戻ってきた菅原くんは頬は赤く腫れているように見えた。

菅原くんごめんね。私が悪者にさせてしまった。

のにも関わらず、私を安心させる為に梓衣華ちゃんを呼んできて、動けない私を保健室に連れていってくれた。

こんなに良い人を私は傷つけてしまった。

私はどういう意味自分でどう否定しても、あの父親の血が流れているんだ。

一緒に暮らした時間が少なくても、どんな人だったかなんて記憶も残ってなかったとしても、母親と似てないと感じたときに痛感させられる。

非道な行いをしたときに思ってしまう。

あいつはきっとこんな性格をしていたんだって。

だから、自分のことが大っ嫌いだ。



保健室に入ると、菅原くんはすぐに退室し、保健の先生が私たちを迎えてくれた。先生は私のただならぬ様子を見て、ソファーに座るように導いてくれた。私の横に梓衣華ちゃんも座る。

「コーヒーくらいしかないけど飲める?」

先生の言葉に私達はこくりと頷いた。


それから少しすると淹れたてのコーヒーの入ったカップが目の前の机に置かれた。

「ありがとうございます。いただきます。」

そう言い、カップに手を伸ばすと、袖から私の手首が見えた。

「あ、、、」

さっき掴まれたところ赤くなってる。

「はい、これで冷やして。さっき先生からもらってきた。」

そう言って梓衣華ちゃんはアイスバックを差し出した。

私でも気がつかなかったのになんで?

思っていたことが顔に出てしまったようで、梓衣華ちゃんはくすっと笑うと、「沙梨華ちゃんをここに連れてくるとき、腕を私の肩にまわしたでしょ?袖が上に上がってたから見えたの」

と、言った。

この子は本当に気が利くなぁと、感心してしまう。

しばらくして、気持ちも落ち着いてきた。

「どう?落ち着いてきた?」

私の隣に座っている先生が私の顔を覗き込んだ。

その言葉に対して、私は「はい、、、」とだけ返事をするとそのまま押し黙った。

そんな私の反応に、先生は困ったように息をつくと、「何があったのか、悩みがあるなら聞くけどって言っても沙梨華は話さないわね」

「・・・」

「この場所を利用する生徒のほとんどがね、怪我とか、体調の不調とかじゃなくて、色んな悩みを抱えている子達なの。、、悩みを抱えているほとんどの生徒たちが自発的にここに来て、悩みや不安を話にくるわ。そういう生徒達は悩みや不安を打ち明けられる誰かがいるから、それを少しだけど解消することが出来る。けど、、あなたみたいな生徒は誰にも話すことができなくて、1人で抱え込んでしまうから心配だわ」

「話したくなったらいつでも聞くから」そう言い、私の頭に触れようとした。

私はその瞬間頭を抱え込み、身体を丸めた。

殴られるわけなんてないのに。

自分の目線以上の高さに他人の腕が上がると、過剰に反応してしまうのだ。

先生は触れようとした手を下ろすと、

「先生、職員室に用事思い出したから行ってくるわね。ゆっくりしてていいから。」

そう言って保健室を出ていった。

先生、気ぃ悪くしたかな?

職員室に用事って嘘だよね?

保健室の先生って職員室にほとんど行くことないって聞いたことあるし。

「うちね、あの先生に何度か声かけてもらったんや。どこで聞いたかは知らないけど、家の事情知ってるみたいで。」

「そっか、良い先生だねきっと。」

「うん。うちもそう思う。」

だって、そんなめんどくさい役割をあえて受け持つなんていい人だと思う。

私にはきっとできない。

「私、沙梨華ちゃんの気持ち分かるよ。どうして、大人に相談しようとしないのか」

「え?」

「言っても無駄だって思うんでしょ?むしろ悪化するって。」

「よくわかったね」

私が目を丸くすると、梓衣華ちゃんは笑った。

「私、小学生の時先生に助けを求めたことがあったの。けど親に上手く丸め込まれて、状況は良くなるどころか悪化した。沙梨華ちゃんも似たような経験したのかなって思った。」

本当に梓衣華ちゃんは私の事良くわかってくれる。

梓衣華になら何でも話せるのにな。

「私ちょっと男性恐怖症っぽいんやよね。」

「え?でも菅原とは普通に話してたよね?」

「慣れれば話せるようになるんやけど、、、人によるんやよね。うち、小さい頃大人の男の人に怒鳴られたことがあって、それがトラウマになってまって、、、」

「うちが小さい頃両親離婚しとって、それが確か、うちが3歳くらいとかそんなもんで、やから、全く大人の男の人に免疫がなかってん。そんな状態で今まで全く関わってこなかった未知の生物に怒鳴られてトラウマにもなるやん?」

「未知の生物って笑笑まぁ小さい頃なら、トラウマになるのに十分な理由だね。私はもっと悪い方の想像しちゃったよ。男の人に乱暴されたとか、、、」

「あ〜。男性恐怖症って聞くと普通そう思うよね」

「うん、でもそうなった理由はどうであれ、本人は辛いよね。さっきの沙梨華ちゃん見たら分かるし」

梓衣華ちゃんはそう言って私の手首にできた痣に手で触れた。

「この痣が無くなるみたいに沙梨華ちゃんの心の傷も癒えたらいいのに」そう、ぽつりと言った。

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