巫女と鬼の間にあるもの。

中筒ユリナ

第1話 巫女と鬼

「これ、、、あげる!おいしいよ!」


小さな女の子の手には木の実が2つ


一つは自分の口の中に。


もう1つは・・・・




遥か昔。。。


村人「お八重さん、ちょっと来てくれ!娘のりんがおかしいんだ!」


朝支度をしていた、八重のところに、一人の村人がやって来た。


八重「なんだい?何がおかしいって?具合でも悪いのかい?」


村人「夕べから、唸っててな、寝言なのか?苦しそうでな。まっ、いいから来てくれよ。」


八重「わかった。。。では、琴。用意しておくれ。いいかい、出掛けるよ。」


琴「はい!お師匠さん。」


八重に言われ、琴は風呂敷のような布切れの中に、何やら様々な文字や文様が書かれたものを包み、その他、筆やら墨のような物を一式籠に入れ、別の部屋からは着物、衣装を持ってきた。


村人が、外で待っている間、二人はその衣装である着物に着換え、ようやく、外に出、村人の所へ行き、一言


八重「お待たせした。では、参りましょうぞ。。。」


琴は八重の後ろから荷物を持ち、ついて、歩く。


村人の自宅につくと、まず、琴は直ぐに玄関、入口に持っていた文字文様の札をはる。そうして、各部屋の隅に次々と貼っていく。


そうして、患者とも言える村人の娘のりんが横たわる側までやって来た。


りんは聞いた通り、苦しそうで、時折唸り声をあげては自分の首元を掻きむしる。


八重は、その様子を見てすぐに、琴に命じる。


八重「琴、札と、筆、そして、水を用意しておくれ。」


琴は、言われるまま、用意し、準備が整うと、いよいよ、始まるのである。

邪鬼を祓う、儀式が。。。今で言う祈祷である。


八重の側に琴は付き、共に目を瞑る。


「のうまく さんまんだあ ・・・・」


呪文のように次々と口にしながらりんの身体に札を貼り付ける。。。


暫くするとりんは落ち付いてくる。。。


最後の呪文が終る頃には、りんの寝息は安らかになり、表情も穏やかになっていく。


八重「もう、大丈夫だ。これで済んだじゃろう。」


「ありがとう。。。お八重さん!」


二人は村人の家をあとに、てくてくと歩きながら、八重は神妙な顔になる。


八重「琴。。。お前には何が視えた。。。」


琴「鬼でございます。」


八重「やはり、琴にも視えたか。。。」



八重と琴。。。


二人は、巫女である。巫女とは、今現在で言う、神社などに居る方々とは違い、古来からの巫女は、霊能者であり、神々の声を聴く。そして、それを偉い国を司るような方々に伝える。その様な役割を担っていた。


しかし、この二人の八重、琴は、村人や、近所など、もっと身近な人々の、役にたつことを役目としていた。


八重と琴は普段は二人並べば普通の親子のようだが、事情あり、八重が、琴を預かり育てている。琴はまだ幼くそれでも、15歳の娘。見た目も幼く、まだ10位の歳にも見える。だが、かなりの霊力を備えており、普段見えないもの等、見たり、話などもできる。しかし、八重のように祓う事が出来ず、表では、八重に守られ、背後からは、神仏によって、守られていた。



八重には感じ、わかっていた。。そう、やって来ると。あれで終わりではないのだ。必ず姿を現す。。


二人はその日の夜寝床に着くや否や、、、感じる!、、何か、、、来る!


八重は、すぐさま起き上がり、構える。琴も同じく待ちまえた。。



「お前か!!!昼間邪魔したのは!!」


デカイ!!かなりの大きさの鬼!!


八重「やはり来たか!」


鬼‘「お前だな!邪魔したのは!、、まずは、お前を踏み潰してくれる!」


と、鬼が、琴に目を向ける、、、一瞬、鬼の空きができ、すかさず、八重が、札と寿々を手に祓う。


が、鬼は、琴を目掛けて攻撃してきた!鬼が琴に手が届く瞬間!


「娘に触るな!」


鬼目掛け、炎が飛んできた!


「この娘に触るんじゃねぇよ!!」


琴の前に立ちはだかる後ろ姿。。


鬼「お、お前は!不動明王!!」


不動明王「触るな!!」


そう、この不動明王が直接、琴を守っているのだ。


琴「お不動様、お待ち下さい。この鬼。。。私に、何か言いたいのでは?」


不動明王「な、なに?、、、こやつが、お前に何を話す?、、何、考えてやがる!」


八重も神妙な表情になりながら、琴を見ている。


琴「あなた、私に何か言いたい事があるのですか?」


鬼「お前、、、何処かで、、見たような、、、」


琴は考えるが、わからない。


鬼「それに、おい!、、不動明王!お前、本当に不動明王か?!、、、」


不動明王「な、なんだと!」

不動明王の表情が引きつる。


鬼「どっからどう見ても、不動明王の成はしても、中身が不動明王だとは、思えるか!!、、、てめぇは、何もんだ!!」


鬼にそれを言われ、琴はため息をつく。


それもそのはずなのだ。この不動明王は、名は不動明王だが、身なりも手に持つ仏具等もどこから見ても不動明王。ただ一つ違うならば、日本の仏様には視えないのだ。


つまりは外国人が日本の着物を着て歩く様なもの。


鬼からは、とてもじゃないが、不動明王には見えず、偽物としか視えないのだ。


琴は鬼に近づく。


不動明王「おい!危ねえだろ、行くな!」


琴「多分大丈夫です。」


琴が鬼の前に立ち、琴より数倍も大きな鬼に触れてみる。


鬼は琴の行動にたじろぎ、後ずさりする。八重には、以前に、同じような光景を見た気がしていた。


琴に触れられ、鬼はみるみるうちに、表情が変わる。


鬼「お、お前は、、あの時の!、、

あの時の娘か!」


何かを思い出したかのようで、その場に座り込む。。。


鬼は琴の頬に手を触れる。


琴には記憶が無かった。ただ、鬼から感じる、優しさだけに触れていたのだ。


琴「ごめんなさい。私はあなたを覚えてないのです。」


不動明王「おい!!!触るなと言ったはずだ!」


鬼「う、うるせーっ!今日は許してやる!次は覚悟しとけ!」


そう言うと、鬼は消えた。。。


八重「琴。。。あの鬼から何を感じたのじゃ?」


琴「はい。。あの鬼からは邪神を感じます。。。しかし、優しさも兼ね備えているようにも感じます。」


八重「そうか。。。」


恐らくはまた来るだろう。二人はそう、考えていた。



幾日かし、琴は山に木の実を取りに出かけた。山と言っても、家の裏山だ。


一人でまだ、明るい時間から出かける。勿論、背後にはあの、不動明王も一緒だ。


あちらこちら、木を選び、食べられそうな物を手に取る。


その様子を見ている者がいる。そう、鬼である。


鬼「俺を覚えてはいなかった。。。」


寂しげな表情を浮かべ、琴に近づこうとする、、、が、、しかし、いるのだ、、、鬼には邪魔な不動明王が。


その鬼の気配を感じ取るのが、琴。そして、不動明王。


琴は不動明王に暫く様子を見てほしいと頼み、そして、呼びかける。


琴「鬼殿!いるんでしょ!」


素直に現れていた。。。


鬼「俺を知らないのか?わすれてしまったか?」


鬼は琴に聞くが、琴には記憶がない。


鬼「なぜ?わからない!なぜだ!」


琴「どこかで会った事があるのであれば、教えて下さい。。。私には、記憶がないのです。幼少の記憶が。。。ですから、教えて下さい。私と会ったことがあるのですか?」


鬼は琴の側まで、降りてくると、琴の頬に触れる。


鬼「覚えてはいないのか?なぜだ?」


琴「わかりません。ただ、この能力を授かり代わりに記憶を無くしました。」


鬼は自分の手を固く握りしめながら、悔しい気持ちになる。


鬼「小さい頃のお前に俺は会っている。お前にはわかるのだろ。俺が、只の鬼ではないと。」


琴「はい。あなたは神なのではないですか?神が怒りに囚われ、邪神となり、鬼へ。」


鬼「お前はあの時も同じ事を言っていた。鬼ではないと。。。」


琴「そうなのですか。。。なぜ?そのような姿に?」


鬼「言いたくはない。。。」


不動明王が出ようとするが、それを琴が止める。


鬼は不意に琴が手にする木の実を見た。


鬼の様子を見た琴が、木の実を差し出す。


琴「一緒にたべませんか?」


そう言うと、琴は鬼に差し出した。。。


鬼は涙を浮かべながら、その実を受け取る。


その様子を不動明王は只見ていた。。。








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