第7話
翌日、茨城のバスツアー中に遺体が発見されたことが新聞やテレビで報じられた。
被害者は
2日後の夜、美貴子は透の店に顔を出した。
店には透と、そして琢磨がいた。カウンター席に座った琢磨は、すっと頭を下げたので、美貴子も慌ててお辞儀を返した。
「先日はどうも」
「こちらこそ」
「ほらほら、そんな堅苦しい挨拶はなし! 茨城土産の栗の甘露煮、すっげえ美味くできたから食ってみて」
透はガラスの小皿に栗の甘露煮を一粒乗せ、銀の匙を添えて、カウンターテーブルに置いた。
美貴子は琢磨の隣の席に座り、さっそく栗をいただいた。しっかりと煮詰められた甘露煮は、栗の渋みを抑え、旨みをうまく引き出していた。中まで蜜が染みて、とろけるような舌触りに変貌した和栗は格別の美味しさだった。
「さすが透。お世辞じゃなく美味しい」
「だっろ~? 蜜にも栗の風味が移っててうまいんだよね。これモンブランとかつくるときに使えねえかな」
「マスターってケーキも作れるんですか」と感嘆したように琢磨が言った。
「まあ、料理は何でも得意ですし? 俺レベルですとケーキぐらい焼けますし?」
透は得意げに胸を張った。
そして、「とっておきの豆があるから、珈琲淹れてやるよ。これが意外と栗の甘露煮と合うんだわ。ちょっと待ってて」と言って、裏に引っ込んだ。自分と琢磨を二人きりにするつもりなのだなと美貴子は察した。
美貴子が口を開くより先に、琢磨が口を開いた。
「実は気になることがあって、お話したかったんです」
そう言うと、琢磨は隣の椅子に置いていた鞄から写真を取り出した。
「これは茨城に行ったときの写真をプリントアウトしたものなんですが、ここを見てもらえますか」
それは筑波山をバックに稲刈りをする参加者たちの姿を捉えた写真だった。琢磨が指さす先には、中年男性が写っていた。こちらを見て、ただ立ち尽くしている。
「あっ、この人って」
忘れもしない、バスの中で亡くなっていた人、山野田だった。
「どういうことなんでしょう?」
美貴子は琢磨の顔を見た。琢磨も困惑といった表情だった。
「亡くなった山野田さんで間違いないとは思うんですが、しかし、彼がツアーに参加していたなんて気づきませんでした……」
「ええ。それに板橋区の職員さんも、山野田さんは欠席だったとおっしゃっていましたよね」
どういうことなのだろうか。欠席のはずが、なぜ参加しているのか。美貴子はおでこに手をやって考え込んだ。
「念のためにほかの写真も見てみたのですが、昼食のときは料理しか撮っておらず、そこで山野田さんの姿は確認できませんでした。あと栗拾いのときの写真には、山野田さんの姿は映っていませんでした」
「そのときにはもう亡くなっていたから……ということでしょうか」
店内がしんと静まりかえった。
琢磨は陰気な静寂を打ち破るように口を開いた。
「山野田さんは、ツアーに参加していた。ということは、私たち参加者はもともと17人だったということになるわけですが……」
美貴子は顔を上げた。
「変だわ、数が合わない」
「……そう思いますよね」
「ええ。私たち参加者は16人だった。みな2人1組で乗っていたはずですから偶数じゃないとおかしいです。バスでも、1人で座席に座っている人はいなかったと記憶しています」
琢磨は、腕を組んで考え込んだ。
「しかし、16人というのは、遺体発見後に駐車場で確認したときの人数ですよね。それ以前は何人だったかわからない……」
「ええ。ですが、少なくとも昼食のときは16人でしたよ。8人がけのテーブルが2つ満席でしたから。それ以外に参加者はいなかったはずです」
「つまり稲刈りのときだけ17人いたってことですね」
琢磨からそう言われて、美貴子は再び考え込んだ。
17人……。本当にそうだろうか?
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