(吏`・ω・´) 相楽くんは、良い奴よ。
夕飯作り。
彼は、悲しくなるほど手際の悪い私を叱ることもなく待ってくれた。
そして、思う。
―――私、いらなくない?
親友に習って「できる人に思い切って頼ろう」と決断し、それは成功した。
そしてこれも彼女が言ったように「いつか頼ってくれたら何だって協力しよう」と思っていたが。
―――ぜんぶこの人で大丈夫なんじゃないかな??
「はぁ……自分が情けない……」
支度が終わり、リビングに並べ、二人で食べ始める。
「情けなくはないだろう」
「あの短時間でパパッと四品も作ったあとで言われてもね……」
鍋も水も使わずフライパンだけで作ってみせた時短肉じゃが(私の皮むきが一番時間かかった)。
手慣れた包丁さばきでサッとできたきんぴらごぼう。
美しく切りそろえられたほうれん草のおひたし。
私がかき混ぜをおろそかにしたせいで一回豆味噌が爆発した味噌汁。
「何事も高望みさえしなきゃいいんだ。まずは食い物を食える状態にすればいい。ごぼうやほうれん草なんて、切って調味料入れる以外は炒めるか茹でるかだけだ」
「美味しさは考えないでおくのね」
「自分で作ったら美味く感じるもんだ」
そうかな。
もぐもぐ。
「あ、美味しい」
「だろ?」
「本当だったわ……姉さんには包丁持たせて貰えなかったから分からなかった」
「まぁ気持ちは分かる」
「分からないで」
本当に美味しい。
味付けもなんだか優しかった。
人間が優しいと、料理もそうなるのだろうか。
「優しいな」
「へ!?」
「自分の姉が優しいって話されてそんな抜けの良いハイトーン疑問符出したるな」
「ああ、姉さんのことだったのね」
びっくりした。いよいよ心の声が口に出さずとも漏れるようになったのかと。
「―――ええ、姉さんは優しいわ」
「その割には、ちょっとぎこちないよな」
食事で舌が滑らかになったのか、彼が踏み込んできた。
「うん……それが少し、重く感じる日があるの」
中三と高一(一回目)の記憶が歯抜けになってしまったことこそ伝えてはいないが、たくさんのことで心配をかけているのに、姉は何も言わずほぼ毎日弁当を作ったり、部屋を片付けたり、休日に気晴らしのドライブに連れて行ったりしてくれている。
「不出来な妹で本当に申し訳ないのよ」
「なら、もっと話し合えばいいんじゃないのか」
尖った声だった。
「アンタとお姉さんは、会話ができるんだろう」
しかし、その鋭角さに彼自身が驚いたようすだった。
「
「……悪い。言い過ぎたな」
「いいえ。そんなことないわ」
沈黙を挟まず私は言った。彼の言う通りだと思っていたからだ。
「相楽くんは、良い奴よ」
「なんだ、それ」
「言葉通りの意味よ」
彼が笑う。
普段から顔を隠しているけど、無表情な人ではない。
ただ、笑うのは苦手そうに見える。
ひょっとして、痛かったりするのだろうか。
「その顔、痛くない?」
また口に出してしまっている。我慢を覚えろ少しは私!
「いや、もう痛くはない。痒い日はたまにあるけど」
あっさり答えてくれた。
と思っていたら、
「こっちから顔を晒しておいて質問に答えないなんてことはしない」
と、言った。
また、ぎこちない笑顔で。
「今度こそ心を読んできよったわね」
「今度? いや、
「褒めないでよ。照れるじゃない」
褒めてない、というツッコミを期待しての発言だった。
しかし。
「いや、照れることは無い」
……そういう君の顔が少し照れているのはどういうことなのでしょうか。
「……なんというか―――ホッと、する」
俯き加減な目でぶっきらぼうに言うのやめてくれる!? ドキッとするから!
「……」
「……」
私たちの不可思議な沈黙を破ってくれたのは、炊飯器から聴こえた『きらきら星』のメロディだった。
「あ、米が炊けた」
彼がそそくさと立ち上がり、ご飯をよそってくれる。
「少しやわめに炊くのが慣れててな。歯応えが無かったらすまん」
「ううん、ウチもそうだから。ちゃんと美味しいわよ」
良かった。会話が仕切り直せた。ありがとう炊飯器。白米は偉大だ。
「お姉さん遅いな」
「きっと残業ね。この時間回ったら、適当に何か買って食べなさいって言われてる。できるだけ、二人で食べられるようにはしてるけど」
「二人、か」
「食卓に男の人がいるのは久しぶりよ」
そういう話題になったついでに、私は家庭の事情を話すことにした。彼も聞きたそうな顔をしていたし。ご飯まで作ってもらったし。
……いや、単純に知ってほしかったのかもしれない。
「薄々分かってると思うから言うけど、ウチ、今一家離散中でね」
「ふむ」
「お父さんは出て行って、お母さんは祖父母の家で療養中。四人で住んでたこの家には、私と姉さんの二人だけ」
「ほぉかぁ」
彼の柔らかい
「ほぉなのよ」
だいぶ残っているマンションのローンはどこにいるか分からない父親が払い続けているからいいとして、その他の光熱水道ガスその他もろもろは短大新卒二年目の姉がすべて担っている。
本人は平気そうな顔をしているが、毎月の給料はほとんど残らないだろう。
私も家計を助けなければいけないのは分かっているが、二度目の留年があり得る身だ。他人のことを考えられる身分ではない。
でも、何かしたいと思ってしまう。
今ならわかる。
その代替品が、くるりだったんだ。
「……なんて」
「二俣?」
「なんて浅ましい人間なのだろう。自己中心的な独占欲と独善の権化。他人の善意と誠意の残飯を
「自虐の時だけ語彙ギアチェンかますのやめたってや」
誰かの役に、立ちたいなぁ。
―――ぽん。
暗黒へ落ちていく私の頭に、大きな手が置かれた。
「洗い物、するぞ」
「……うん」
自分の食器を持って立ち上がった。
「あ……」
だが、彼の背中が目の前にあり、立ち止まってしまった。
「どうしたの? そう、らく……くん」
その理由はすぐに分かった。
「……えへっ?」
姉が、いた。
笑って、いた。
いつの間にか、いた。
「いつから?」
「いやいや違うよ
「違うとかじゃなくて」
「ついさっきだよ。頭ポンのところから」
「わあああああああああ!!?」
「なんでおみゃーさんは最後に毎回叫ぶんかね? あ、お姉さん夕飯用意してあるので温めますね」
「お、マジかい相楽センセ。この子迷惑かけなかった?」
「相楽くん! なんであなたはそんなに平静なのかしら!!?」
彼が帰ったあと、姉からはさんざんいじられた。
【続く】
キャラプチ紹介
☆おにぎりの具は何が好き?
(@*'▽') うめぼし
(-_-メ)和) こんぶ
(吏`・ω・´) ツナマヨ
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