(吏`・ω・´) あなたも来るのよ! 相楽くん。
くるりは、あらゆる面で私とは真逆の女の子だ。
まず、くるりは可愛い。
私は可愛くない。
外見に関しては、彼女はホモ・サピエンスの中で一番可愛いので仕方ない。
それ以外の部分。たとえば話し方。くるりは相手を否定しない。まず話し相手の言葉を柔らかく受け止め、少し考えてから肯定的で共感性のある言葉を返す。
あと、人との距離をはかるのも得意だと思う。
人懐っこいわりに、ベタベタとじゃれつくこともなく、自分からスキンシップをとることも少ない。
しかし、私が手を繋いだり抱き着いたりしてきても拒否することはない。
……まぁ正直、冷静な頭で考えるとやり過ぎなのは否めない。
女同士の盾が無ければ軽く三回は牢屋行きになってるだろう。
いや私のことはどうでもいい。
くるりは、誰とでも仲良くなれる子だが、誰に対しても一線は引くタイプなのだ。
つまりなにが言いたいか。
「よぉ、お二人さん」
傷と痣を持ったスカーフェイス。
もう絶対に何も言わないぞと自らを戒める。
「グリ高で一番天国に近い場所にようこそ」
「しゃらくさいわよ」
「親友を天使呼ばわりしとる奴にだけは言われとうないな」
うん、言っちゃったけどこれはセーフだよね。ガチでしゃらくさいし。向こうも言い返してくるし。
「えへへ。お邪魔します~」
「遅かったなナガサ。ミネストローネが冷めちゃうんじゃないか」
「今日は
「お姉さんが作ってくれなかったのか」
「姉にも休息は必要だから毎週金曜は断ってるの」
「自分で作るという発想は」
「自分で……つく……る?」
「料理なんて概念知りませんわみたいなリアクションやめろ市営バスで定期通学してるパンピー
クラスで話してるところなんて見たこともなかったが、妙に口の回るこの男子。
事情は昨日知ったが、それでも今朝のことを含めて驚いている。
くるりが“男”にあんなに近付いたのを初めて見たのだ。
「ナガサ、味噌汁飲む?」
「飲む~! カズくんもスープどうぞ」
「ありがとう。ナガサ、そのパンどうするんだ」
「……? 食べるんだけど?」
「すまん俺の訊き方が悪かったわ。そのカバンの半分を圧迫してる弁当箱の中身とクリームパン&あんぱんも食べるのか?」
「分かってないなぁカズくん。お米と小麦は別腹だよ?」
「人体の神秘やね」
「いただきま~す」
ああ今日も今日とて食いしん坊な天使くるりは可愛い。クリームパンを頬張る顔はいつかきっとユネスコ無形文化財に登録されるだろう。
じゃなくて。
こうして食べ物をシェアしたり、気安い感じで話したり、本人たちだけのあだ名で呼び合ったり。
「くるりって、そういう子だったかしら」
「なぁに~?」
「……クリーム、口についてるわよ」
「ありがと~」
ハンカチで口を拭ってやる。
「……」
くるりの、口を拭いたハンカチが。
「なぁ二俣」
「なによ? このハンカチを食べるとでも思った? 残念、ハズレよ。家の私の部屋に神棚を作ってちょっと家宝にするだけだから!」
「その語るに落ちた墓穴でしばらく埋まっとれ」
「カズくんと吏依奈ってけっこう息合うよね」
「「それはない」」
何を言っているのだくるりは。
確かに相楽は、私の“敵”ではないことは分かった。
しかし、それはそれとして変にこちらのペースを崩される。
いちいち突っかかってくるし、どうもいけ好かない男だった。
「カズくん、ミネストローネどうだった?」
「美味かった」
「やったぁ!」
―――でも、くるりにとっては。
「ねぇ」
私は考えていた。
彼女は、相楽のことが好きなのではないだろうか。
「明日か
「おっ! いいねいいねぇ。どこ行こっか?」
「……」
くるりは乗り気である。
相楽は「自分には関係ない」と思ったのか視線がまた弁当に落ちた。
なので、念を押した。
「あなたも来るのよ! 相楽くん」
「ふーん……はい!!?」
今まで(といっても昨日の今日までだが)で一番ハイトーンな相楽の声を聞いた。
「いや、俺は―――」
「そうだよカズくん、一緒に行くんだよ」
ほら、くるりも喜んでいる。やっぱり相楽のことが好きなんだ。
「明日はちょっと―――」
「じゃああさっては?」
「……」
「むむ~?」
くるりが頬を膨らませた顔面を、ぐいと相楽のスカーフェイスに寄せる。
ふふん。見たか。これぞ、滅多に出ないくるりおねだりモードだ。
ひとたびこうなれば、
さぁ、お前も堕ちるがいい相楽秀和。
……ちょっと近くない?
目と目が近くない?
キスとかできちゃわない!!!?
「……いや、やっぱりダメだろ」
「なんで?」
「なんでよ!?」
「なんでだよ!!」
三者三様の「なんで」がでた。よもやくるりの魅力に抗う者がいるとは。
「あなたがいないと始まらないじゃない!」
「だからなんでだよ!?」
ちっ。にぶいなこいつ。
「な、なんでもよ! とにかく、あなたにいて欲しいのっ!!」
ガラにもなく
くるりでもダメだったなら、私がやってもなぁ。
こういうとこ、くるりみたいに可愛くできたら。
「……分かった」
「へ?」
なんか上手くいってしまった。
「よっし!」
くるりのガッツポーズ、石像にしてルーブル美術館に飾ったらどうだろう。ミケランジェロとかの隣に。
「吏依奈、吏依奈」
「なによくるり」
くるりが耳元でひっそりと話しかけてくる。
「上手いこと誘ったね。わたしのことはあんまり気にしないでいいよ」
「……はい? よく分かんないけど、分かったわ」
当日は、相楽と二人きりでデートして欲しいから、何か理由を付けて行かないつもりなのだけど、適当に返事をしておく。
「明日はどこ行くか作戦会議しようねっ」
「ノリノリね」
なにはともあれ、くるりが楽しそうだと私も嬉しい、楽しい、大好き、愛してる、抱きしめたい、看取られたい。
ただ何か変な気がする。
くるり、あなた何か勘違いしてない?
「カズくん卵焼きもめっちゃ美味しいよ~」
「1.5人前の弁当掻っ込んでパン二つ平らげてさらにそんな顔で食べてくれるなら作った甲斐があるよ。お前みたいな娘が欲しい」
まぁいっか。
「カズくんがお母さんかぁ」
「そこはお父さんでよくない?」
私にとってはムカつくばかりだが、相楽が心根の優しい男だということは分かっているつもりだから。
「カズくんだったら嫁に来てもいいよぉ?」
「くるりを婿にはやりません!!」
「性自認がスクランブル交差点並みに混線しとる」
将来の話は銀河の果てに置いておくとして、くるりに好きな人ができたのなら、それは親友として、心から応援するだけだ。
【続く】
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