第11話 波乱の前の静けさ。
闘争心むき出しの
それに、呼応するかのように空気がさらに張り詰める。
だが、俺の心は静かだった。
むしろ、さっきまでの不安感が噓のように、冷静に試合を分析する余裕すらあった。
第2ラウンド。2戦目の第1ラウンド、そして…………第2ラウンド。
試合終了のBGMがどこよりも速く流れた。
「くッ――――」
2戦目にも出ていた四条は、机に拳を押し付けるとそのまま突っ伏した。
無理もないだろう。
四条が最初に発したセリフは、決して虚言でも虚勢でもなく、彼の揺るぎない自信からくる言葉だったはずだ。
実際、2戦目のプレイからも四条がそれなりの猛者であるのは一目瞭然だった。
だが結果は、ろくに攻撃を放つことも許されず、放った攻撃はみくうの軽やかなステップを前にすべて空を切り、ストレート負け。
控えめに言って散々だった。
「あなたの攻撃センスは良かったわよ。駆け引きを学べば、もっと良くなるのじゃないかしら」
四条がハッと顔を上げたときには、
◇◇◇
「すごかったなー」
俺の声も自然と気の抜けたものになる。
「そうね。まさか、
由奈が意外そうに呟く。
いや、そこじゃないだろ。とツッコミを入れようとしてから気づく。
「たしかに、香織先輩が他人と話してるの初めて見た気が……」
「でしょ。それななのに、あれだけの完成度のコンビプレーができるなんて、なにがあったのよ」
由奈は眉間に皺を寄せ、呟く。
「みくうのコミュ力が高いとか?」
由奈は、鼻で笑うと言った。
「あんな、ダサ黒パーカーにコミュ力があるわけないでしょ」
みくうの服装を思い返す。
一部に目が引きつけられていたせいで、
いつでもスポーツの出来そうな、ストリートフッションというのが、この世の虚を突いているような気がするのはともかく、ダサいの対極に位置する服装だった。
片や由奈の服装は、同じくパーカーにジャージパンツの組み合わせでも、どことなくセンスの無さを感じさせる。
つまり――
「コミュ力は、由奈よりみくうの方がありそうだな」
「ちょっと、それどう言う意味よッ」
すかさず由奈が反応する。
「そのままの意味だけど?」
「ふーん、そう。
不気味なオーラを纏って、由奈が呟く。
「なんだよ?」
「なんでもないわよ。ただ、今から
背中を冷たいものが走る。
画集の奥には、エロティックでアダルティックなゲームが……。
「……そ、それになんの意味があるんだよ」
俺は、わずかな期待に賭けてとぼける。
だが、由奈はそれを無視すると、取り出したスマホで、これ見よがしに
ご丁寧にダイヤル音まで聞こえるよ。
今、家にいるのは美空と羽衣と母さん。
つまり、死あるのみ。
死の意味が、相手によって生命的にか、社会的にか、変わってきそうだけど。
「わ、わかった――」
俺は、秘密を守り切るために全力を尽くすことにした。
ダイヤル音が6回聞こえたところで、一旦止まった。
一応、俺の弁明を聞く気はあるみたいだ。
「――あそこにあった物の幼馴染系の作品は
そこまで一気に捲し立ててから、由奈の様子を窺う。
だが、下を向いているせいで、表情を窺い知ることは出来ない。
「…………そ、それじゃあ他のは? あの妹がタイトルについてるのはどうなのよ?」
タイトルまで覚えてるのかよ。
「あれは、……俺のだ」
由奈は俺の答えを聞くと、構えていたスマホを下ろした。
誤魔化さなかったのが、功を奏したんだろう。これで俺の命は首の皮一枚繋がった。
ホッと安堵の息が漏れたのも束の間。
ん?
なんか由奈の手、震えてないか。
目に付いたのは、由奈が今にもスマホを握り潰しそうな光景だった。
「あのー、
俺が戦々恐々訊ねる。
「…………んたい」
「……ん?」
よく聞き取れずに訊き返す。
「変態! シスコン!」
「除菌されて、死滅しろ……ッ!」
俺がスマホの顔面ライナーに悶絶しているときには、由奈はスタスタと俺たちが試合をするデスクに向かっていた。
俺も、慌てて立ち上がると由奈の後を追った。
「……俺は細菌じゃねえよ」
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