第133話
「……ですが、東雲樹生さんと楓さんが並んでお話をしている時、ゾクッとするものを感じませんでしたか?」
「『ゾクッと』ですか?」
澪の突然の発言に彩音と悠花は少しだけ緊張させられました。記憶が戻っていないだけで、東雲樹生と楓の関係には不吉なものがあるのではないかと考えてしまいます。
「はい。……お二人とも容姿端麗で、並んでお話をされていた時は少しだけゾクッとしてしまいたました。」
「……はぁ。」
「タイプが全く違うお二人が仲良く連絡先を確認していたお姿を見ていて、何だか気持ちが昂ってしまいました。」
そう話す澪の顔が少しだけ赤らんでいるように見えていました。楓だけの時には一度もそんな反応を見せたことはありません。
彩音は澪が東雲樹生に対して特別な感情でも持ったのかと勘違いしていましたが、悠花は澪の言っている内容を理解しています。
「……澪さんのおしゃっていること、共感出来る部分があるかもしれません。」
「えっ!?悠花さんもですか?」
「ええ。……まだ初対面で微妙な距離感を残していましたが、洗練される前の男性が並んでいる姿は『ゾクッと』したかもしれません。」
基本的には緊張感を持続させることが難しいらしく、時々脱線してしまうような流れになって盛り上がります。それでも、そのおかげで彩音は『処刑』という重い言葉に集中し過ぎることもなくなっていました。
もし、転生したのが彩音だけだったとしたら記憶が戻った時点で全てを諦めて受け入れてしまっていたかもしれません。
それは楓に対しても同じ気持ちでした。
――ですが、転生前の楓さんについては何も情報がありません。それでも、楓さんが近くにいてくれるだけで安心してしまう。
無意識に楓が敵にはならないと感じていたのかもしれません。
――ソフィアとはどんな関係だったのでしょう?
そんなことを考えてしまった彩音も少し頬が赤くなり、俯いてしまいました。彩音の表情が変化したのを見つけた澪と悠花は嬉しそうです。
「やはり彩音さんにもご理解いただけるのですね?」
「いえ。……申し訳ございません。おそらく勘違いだと思います。
「勘違いでしょうか?」
「私には、お二人が何に『ゾクッと』したのかが理解出来ておりませんわ。」
「それでしたら、次に東雲さんがいらした時に、楓さんと並んでいるところをご覧になってください。」
「……え、ええ。承知しました。」
こんな時の澪と悠花の熱量には彩音も困惑する部分があります。それでも、制服の比較の時に楓が『セーラー服派』か『ブレザー派』の解決には至っていませんが、別の発見はありました。
――そう言えば、私も楓さんと東雲さんの仲が良いように感じていました。……そのことにも意味が?
澪と悠花の感覚とは違っていますが、彩音にも感じることはあったのかもしれません。
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『夏休みに入ったらスグ、あの人が行くことになるけど大丈夫か?』
東雲樹生との初対面から数日後、楓からの連絡がありました。
夏休みが近くなっていたこともありますが、彩音としては焦っているので東雲樹生のことは後回しにしておきたい気持ちもあります。
――まだ、楓さんの進学の件が解決していないのに……。
浩太郎の用事で楓と度々会っていましたが、彩音の髪型に反応を見せた程度で目立った進展はありません。
「楓さんも、いらっしゃるのですよね?」
『あぁ、強制参加らしい。……九条さんの関係者だと思われてるから、誤解は解かないといけないし。』
転生前から関りがあった楓が、彩音に素っ気ない態度であることも気になっています。楓が『強制参加』や『誤解』などの言葉をわざと使っていることは彩音にも分かっていました。
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