第126話

 彩音にとっては『属性』という謎の展開になったまま、その日の勉強会はお開きとなりました。


 楓が疲れ切っていたので彩音が家まで送ることになり、詳しい話は後日としてあります。ただし、車に乗り込む直前の彩音に悠花が声をかけました。


「彩音さんは、もっと我がままになる必要があるかもしれませんね。」


「……我がままになるんですか?」


「はい。もっと我がままになって、『お嬢様』要素を強く引き出せば楓さんにも変化があるかもしれません。」


 意味が分からないままでしたが、着替えるタイミングを逃して制服姿のまま楓の隣りに座る恥ずかしさもあったので彩音は話しに集中出来ていませんでした。


 彩音も、本を取る時に楓から言われた内容を正確に覚えていません。それでも、いつもと違う感覚があり、自然と涙が零れ落ちてしまう懐かしさも感じていました。


 楓の決心に影響を与えることが出来なかったとしても、今日の制服対決に意味があったことになります。


 そして、着替えを済ませた千和たちを送り届けた悠花と澪は話し合いの場を持つことにしました。悠花としても楓に進学させる目的を忘れているわけではありません。



 悠花と澪の前世の記憶には楓の存在はなかったのです。それでも彩音の態度や楓の言葉遣いは結びつきを感じさせるものでした。


「もしかしたら、ソフィアさんのお屋敷で働いていたのかもしれませんね。」


「悠花さんと私は楓さんとお会いしても何も感じませんでしたから、その可能性が高いと思います。」


「それと、制服姿の彩音さんを見ていて何か物足りないように感じたのですが、澪さんはいかがですか?」


「あっ!それは私も感じておりました。」


「何と言うか、ソフィアさんはもっと『お嬢様』という感じがしていた気がするんです。」


「えっ?……『お嬢様』、ですか?」


「はい。彩音さんも『お嬢様』ではあるのですが、外見的に少し物足りなさがあるんです。」


 澪は話をしながら、悠花が言っていた『属性』の話を思い出していました。『お嬢様』としてカテゴライズするのであれば中身だけではなく外見的な要素も整えたいということになります。


 2人は目を閉じて、記憶の中のソフィアをイメージしました。そして同時に答えを導き出します。


「髪型!」


 制服姿のソフィアの髪型が違っていることを思い出しました。

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 勉強会から数日の後、彩音は学園でちょっとした変化に気付きます。


「あら?おはようござます。……千和さん、目が悪かったのですか?」


「えっ!?あの、おはようござます。えっと、私、普段はコンタクトをしておりました。」


 照れくさそうな表情の千和とは対照的に満足そうな悠花。彩音は二人を見比べて何かがあったことを悟ります。


「……メガネをかけたお姿も知的で千和さんにはお似合いですね。」


「あ、ありがとうございます。」


 そして、次に出会った沙織は、髪型が以前と違っていました。彩音たちを発見した瞬間隠れようとする動きを見せましたが、すぐに観念したように挨拶をします。


「……あっ、おはようござます。」


 前髪をピンで留めて、おでこを出した髪型は沙織の意志の強さを際立たせているようにも見えます。ただ、彩音は瞬間的に沙織だと分かりませんでした。


「おはようござます。沙織さんは髪型を変えられたんですね?」


 そこで沙織はメガネを掛けている千和に気付きました。お互いに恥ずかしそうな顔をしてい見つめ合います。

 ただ今回は悠花が不満気に沙織に何かを指摘していました。


「沙織さん、腕章は腕につけるものですわ。」


「ですが、こんな自己主張の強い腕章は流石に恥ずかしいです。」


 沙織のスカートに安全ピンで腕章が下がっています。その腕章から『生徒』の文字だけが読み取れました。


「せっかく『生徒会長』の腕章を作ったのですから、沙織さんに付けていただきたいのですが……。」


「……申し訳ありません。……これで許してください。」


 2人には見た目の変化がありましたが、その後に挨拶をした渉美は以前と同じ姿のままです。渉美は、千和と沙織の変化を見てハッとした表情を見せました。

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