第113話
「どうして、俺が文句を言われる雰囲気になってるんだ?」
「それを僕が説明はしたくないな。自分で考えてみろ。」
「……いや、全く分からない。……こんな短い時間で何かあったのか?」
村瀬は何も答えずにいました。訳が分からない楓は彩音たちを見ましたが、もちろん何も言いません。
沙織まで難しそうな顔をして悩んでいたので、楓にとっては居心地の悪い状況になっていました。
「怒ってるのか?」
「ええ、私からも理由はお話できませんが、楓さんの責任です。」
「……何だ?」
楓は首を傾げるだけでしたが、これ以上は誰も答えてくれなさそうでした。ただ、困り顔の楓を見ているだけで嬉しくなってしまった彩音がクスクスと笑ってしまったので、その場は収まってしまいます。
「さぁ、せっかくですから、少し休憩にしませんか?」
納得いかない様子の楓でしたが、休憩スペースに歩き出しました。同じく向かおうとして立ち上がった村瀬に彩音が小声で話しかけます。
「私は、まだ諦めてはおりませんよ。」
その言葉を驚いた顔で聞いていた村瀬でしたが、こちらも小声で、
「……よろしく、お願いします。」
とだけ返しました。澪や悠花にも聞こえてはいたので、二人も微笑みながら村瀬を見ています。
澪と悠花の頭にも『女子校』の選択肢は消えていたのです。
それまでは比較的真面目な話をしていましたが、彩音たちは楓の持っているお菓子に興味津々です。普段メイドたちが用意してくれている物とは全く違うので、誰よりも喜んでしまいます。
結局、楓と村瀬はキャッキャッ言いながらお菓子を楽しんでいる女子たちを苦笑いで見守るしかありませんでした。
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勉強会の翌日に彩音の屋敷を訪ねて来たのは沙織でした。
何の連絡もないままに、メイドから『ご友人の方がお見えです。』とだけ言われて驚きましたが、村瀬からの話以降、沙織の様子が変だったことも気になっていました。
「……突然お邪魔してしまい、申し訳ございません。」
「いいえ、そんなことはお気になさらないでください。沙織さんが遊びに来てくださるなんて、いつでも大歓迎ですわ。」
「ありがとうございます。」
沙織の表情は固いままで、何か話したいことがあるのは明確でした。それも、わざわざ彩音と二人きりになれるように来ているのです。
彩音は自室に招き入れて、沙織が自分から話してくれるまで待ちました。
「……あのぅ、今は彩音さんのことをお友達だと思っております。こんな関係になることができて、心から喜んでおります。」
「ええ、私もですわ。……突然どうされたんだすか?」
「申し訳ございません。ただ、そのことを前提にして、これからの話を聞いてほしかったんです。」
「はい。何でしょう?」
沙織は覚悟を決めて、彩音の目を見つめたまま話始めます。
「私、彩音さんのことが憎かったんです。……聖ユトゥルナ女学園に中等部から来たのですが、彩音さんのことを『初めて見た瞬間』から憎かったんです。」
「……ええ、その経緯は千和さんから少し聞いておりますわ。」
「違うんです。彩音さんが学園の中で注目を集めている存在であることを知る前に、彩音さんのことを憎いと感じていたんです。」
「えっと、それは……?」
「ずっと、彩音さんは『こんな人だ』って決めつけて見ていたんです。何も苦労せずに注目を集めてしまって、九条家のお力で思うがままに生きている方だと決めつけてしまっていたんです。」
そこに関しての理由を彩音は分かっていました。最初に沙織を見た時に、ビアンカ・オリアーニと同じ『敵意』を感じていました。
前世からの関係性を引き摺ったまま転生しているのであれば、澪や悠花と違いはありませんでした。
「実際にお話してみれば、そんなことなかったことに気付けたのに、ずっと思い込みから逃げられなかったんです。」
あのタイミングで沙織を推薦していなければ、その思い込みを消し去ることもできなかったことになります。
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