第110話
図書館の中に入り大きめの机に皆で座っていましたが、彩音たちは公立の図書館が初めてでキョロキョロとしていました。
小さな子どももいたりするので、そこまで静寂な空間というわけではありませんでしたが、居心地の良さを感じています。
「……聖ユトゥルナ女学園でトップだって聞いてましたから、昨年度の有名私立で使われた入試問題を持ってきました。たぶん、これで志望校の選択はしやすくなると思います。」
村瀬が問題用紙を彩音たちに渡していきました。
「ありがとうございます。……あのぅ、村瀬さんは、どこまでご存じなのですか?」
「外部受験を考えてることは聞いています。でも、ご安心ください。僕の父親も九条グループでお世話になってる一人なんで、このことは外に漏らしたりはしませんよ。」
「あっ、そうなんですか?村瀬さんのお父様が。」
「はは、お父様なんて大層なもんじゃないです。……組織の末端ですから、恩を売ってとかも考えてないのでお気遣いなく。」
「まぁ、その辺の人選はしてる。この前の模試で全国30位以内には入ってるらしいから、とりあえず勉強を教えるのにも問題はないはずだ。」
「お前がそれを言うと嫌味になることを理解しておいた方がいいぞ。試しに同じ問題をお前にやらせて、僕より点数が上だったんだからな。」
「……今だけだよ。すぐに俺なんか追いつけなくなる。」
そう言うと楓は本を探すために席を離れてしまいました。今日は紅葉が一緒ではなかったので、彩音たちのことも村瀬に任せてしまい、のんびりモードでした。
「楓さんの方が村瀬さんよりも、模試の点数が上だったのですか?」
「えっ?あぁ、はい。あいつはちゃんと受けたわけじゃないから、僕の採点ですけどね。毎回負けてます。」
そう言って、村瀬は笑いました。
用意された問題を午前中の時間を使って6人は解くことになりました。その間、楓と村瀬は読書をして過ごしています。
ただ、お昼が近くなると楓は本を閉じてしまい周囲を見回して立ち上がりました。彩音たちは問題に集中しており、気が付いていない様子でしす。
「……どうかしたのか?」
「いや、ちょっと出てくる。すぐに戻るから、頼むな。」
楓はそのまま図書館を出ていきましたが、わずかな時間で戻って来ました。しかも、また大きなバスケットを持っています。
「それは?」
「いや、そろそろ昼飯だろ?……調達してきた。」
「はぁ?調達って……、買ってきたのか?」
楓は小声になって、村瀬の耳元で囁きました。
『ここにいるのが誰なのか忘れたわけじゃないよな。彼女たちを見てるのは俺たちだけじゃないんだ。……こういうのも用意されてるんだよ。』
村瀬は楓の話を聞いて、自分も周囲を見回してみました。それまでは気付きませんでしたが、場違いなスーツ姿の女性が立っています。
『……アレは?……もしかして、警護してるの?』
『だろうね。……ちょっと緊張感あるだろ?』
村瀬も父親の仕事の関係で、九条家・鳴川家・仲里家のことは知っていました。それでも楓と親交があるということで油断していたのかもしれません。
『今更、抜けるなんて出来ないからな。』
楓の一言にドキッとさせられて、その時に村瀬と目が合ったスーツ姿の女性もお辞儀をしています。
『……軽い気持ちで大丈夫だ、って言ったの誰だよ?』
楓がクスクスと笑っていたので、彩音たちは手を止めて首を傾げていました。
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