第78話

 この翌日の夜、楓から苦情の電話がありました。彩音にとっては予定通りの連絡です。


『……紅葉の写真が母親に届いてたんだけど、どういうこと?』


「『どういうこと?』……、というのは?」


『俺の母親が働き始めた会社、瀧内さんのお兄さんの会社だったんだ。新谷さんから写真を渡されて驚いたって言われたけど?』


「まぁ、そんな偶然があったのですね。私も驚きましたわ。」


『……知ってたな?』


 母親経由で写真を渡した方がインパクトは強いと考えて、千和に依頼してありました。

 彩音は我慢していても笑い声が漏れてしまいます。電話がかかってきた瞬間、全てを悟って覚悟していたのですが芝居をすることができませんでした。


『前に話をした時も、知ってたんだろ?』


「申し訳ありません。千和さんから聞いておりました。」


『それなら先に教えておいてほしかったな。……母親から文句言われたよ。』


「文句……、ですか?」


 彩音は事前に千和から聞かされていた。『せっかく皆さん綺麗にしているのに、汚い格好の息子で申し訳ありません。』と言われたらしいです。

 それと、『息子に渡していたら、自分が写った物は見せてくれなかったと思うので、ありがとうございます。』も千和が教えてくれました。


『これって、やっぱり社長が関係してるのか?』


「それについては分かりません。ですが、父は何も言っておりませんので関係ないかと思いますわ。」


 この点については誤魔化しておくことにしました。

 紅葉が浩太郎と知世に相談していたことを楓は知りません。あの日、紅葉は彩音のところに遊びに来ていただけ思っていました。


『そうか。……でも、まぁ、無関係ではないよな。今回の件でも強引に進めて、瀧内さんたちに迷惑をかけてなければいいんだけど。』


「それはありませんわ。父は強引ですけど、そういうことはしない人です。それに、楓さんのお母様が来てくれて、千和さんたちは喜んでいましたよ。」


『まぁ、それならいいんだけど。……母さんも嬉しそうだから、社長には感謝しないとな。』


「フフッ、まだ父が関与しているか決まってませんよ。」


 楓の中では浩太郎の関与が確定している話し方になっていました。それでも、そのことを素直に感謝しているのは、母の体調を心配していたからかもしれません。



『……それにしても、九条さんの修学旅行の件は意外な展開になってるな。』


「あっ、もうご存じだったのですね?」


『一応、気にしてはいたからね。俺も九条さんから話を聞く前に、何が起こっているのか知ることになるとは思わなかった。』


「学園でも、朝から少し騒ぎになっていました。いろいろと心配されている方や怒っている方もいて、反応は様々ですけれど。……今回の件で理事長が関係しているとは思えません。」


『確かに、そうかもしれないな。学校側のデメリットが多過ぎる気がする。』


 彩音たちも最初は理事長を疑っていましたが、楓が言うように学園側には何のメリットも思いつきません。

 試験や生徒会の件では、彩音に注目を集めさせる狙いがありましたが、修学旅行で起こった出来事は全く関係ありませんでした。


「ただ、父のところへは理事長から連絡が入っているみたいですよ。」


『えっ!?……何で?』


 帰宅した浩太郎から、『理事長から会って話がしたいらしい』と聞かされた彩音も楓と同じ反応をしていました。

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