第77話
そして彩音は、毎回写真を渡しそびれてしまっていました。
――楓さんが、お帰りになる時に……。
と考えた瞬間、あることを思いついてしまいます。いつも余裕の態度で話をしている楓の驚いているところを見てみたくなっていました。
思いついた方法は一石二鳥とも言えるもので、写真を渡すと同時に打ち明ける機会を逃していた話も伝えることが出来ます。
□□□□□□□□
「私たちも同じように考えていたかもしれませんわ。」
「私たちの方が余計な気を使ってしまっていたということですね。」
澪と悠花に楓から聞かされたことを教えました。彩音が感じたことも共有しておくことが重要でした。
「知らず知らずのうちに、楓さんに対して失礼な想いを抱いていたのかもしれません。……すごく反省しております。」
その場には千和と渉美もいましたが、千和だけは少し様子が違います。何か聞きたそうで、ソワソワしているように見えました。
「千和さん?何かあったのですか?」
「いえ、あのぅ。楓さんは、お母様が兄の会社で勤務されていることはご存じなのでしょうか?」
「あっ、それについては、『新しい仕事』としかおっしゃっていなかったので、千和さんのお兄様のことはご存知ないと思います。……ですが、楓さんも喜んでいるご様子でしたよ。」
「えっ?そうなんですか?」
「はい。お身体へのご負担が軽くなることも安心していたようですよ。」
「あっ、兄との話の中で、そんなこともお話されていたような気がします。兄も、無理しないで大丈夫と言っていました。」
「……ずっと、お母様や紅葉さんのお身体のことを心配されていたのかもしれませんね?」
「えっ!?紅葉さんもお身体が?」
彩音の何気ない一言に、その場にいた皆が反応してしまいます。言葉を発した彩音本人も無意識のことで、自分の言葉を認識できていません。
「えっ?私、紅葉さんのことをお話しておりましたか?」
以前にも同じような発言もありましたが、遊びに来ている時の紅葉は健康体そのものでした。発言した本人も驚いてしまっているので、これ以上の追究は不可能です。
「……今日、また兄に用事があるので会社に行く予定なんですが、黙ったままで良いのでしょうか?」
「父が関係しているとは思いますが、父からは何も言われておりません。私としては、このまま隠している方が不自然な気がしています。」
楓が浩太郎と出かけている間、紅葉は皆と留守番をしていました。その時、彩音の部屋にあった本について、千和と紅葉が楽しそうに話をしていたりもしています。
「千和さんのお兄様がお許しくださるなら、お話しても良いと思いますわ。」
「はい。兄に聞いてみてからにします。……ありがとうございます。」
実際には浩太郎の関与は確定していません。しかしながら、この状況で浩太郎が関与していなことの方が変だと思えています。
それも紅葉が彩音のところを訪ねて来た直後に色々と変化しているのであれば、紅葉の相談が発端になっていることも間違いありません。
――紅葉さんも、お母様のお身体を心配されていたのでしょうか?……ですが、最初に紅葉さんはお父様ではなくて、私を訪ねて来てくださっています。
浩太郎と知世が紅葉の相談相手になったことは偶然のこと。
――紅葉さんは、私にどんな相談をしたかったのでしょうか?
彩音では紅葉の母親の仕事先を紹介することは出来ません。
となれば、紅葉の相談内容は楓についてのことだと予想されます。こんなことを悩んでいると、何も教えてくれない浩太郎に気を使うことが無駄に思えていたのです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます