第73話

「次に予定されてる行事は?」


「……半月後に修学旅行がありますね。中高一貫なので必要ないとは思うんですけど。やっぱり、何かあるんでしょうか?」


「まぁ、そう考えておいた方が無難だろ。どこに行くんだ?」


「海外なんです。」


 澪や悠花とも話をしており、一応は警戒していました。ただ、何か起こるにしても全く予想できないので、何を警戒すればいいのか決まりませんでした。


「警戒ばかりして、つまらない旅行になってもバカバカしいから、必要以上に意識し過ぎない方がいいかもな。」


「珍しく楽観的なご意見ですね。」


「そうかな?……でも、修学旅行となれば、九条さんだけに何かするのも難しいと思うんだ。」


「そうですね。ちゃんと楽しむようにもしますわ。」


 彩音は、楓とそんな話で笑い合うこともできている状況に感謝していました。それだけでも楽観的に考えることができています。

 浩太郎がやっていることの真意は分かりませんでしたが、紅葉が望んでいることでもありそうです。


「あっ、しまった。社長に呼ばれてたんだった。」


「……楓さん、父のこと『社長』って呼んでいるんですか?」


「だって、社長だろ?……この前、そう呼ぶように言われたんだ。」


「なんだか不思議な感じがしますね。」


 色々な人が浩太郎を『社長』と呼ぶ場面を目にしていましたが、同じ年の楓が呼んでいたことには妙な感覚がしていました。



 定例会議でも楓のことを悠花から聞くことになりました。


「……父から、楓さんについて聞かれましたわ。父の周囲でも楓さんのことが話題になっているらしいです。」


「先日も、学校の帰りに呼ばれていたみたいです。楓さんが制服のままでいらしておりました。」


「もしかして、彩音様のお父様は楓さんを……。ですが、そんなはずはありませんし……。」


「どうされたんですか?澪さんは何か気が付いたのですか?」


「いえ、楓さんをお屋敷で雇い入れるおつもりではないかと思ったのですが、それだとパーティーに連れて行くことはないので変ですわね。」


 楓は進学しないと言っていたので、就職するはずでした。そのことを見越しているのであれば理解できる話でした。

 ただ、浩太郎は会社の人を仕事の用事で屋敷に呼びつけることはありません。逆に、屋敷の使用人に会社の仕事を手伝わせることもなかったのです。


「……先日、楓さんは父の私室にご案内しましたわ。会社の方を私室にいれることはありません。……となれば、屋敷内のお世話係になるのでしょうか。」


「その可能性もあると思ったのです。」


 確かに、ない話ではありませんが、彩音は感覚的に否定していました。ただ雇いたいだけであれば、そんな回りくどいやり方を浩太郎はしないと考えたのです。


 そんな時、彩音のスマホが鳴りました。


「えっ?……千和さんからお電話みたいです。」


 澪と悠花も意外そうな顔で突然の電話に反応していました。明日、学園で会うまで待つことができないような内容かもしれず、ドキドキしてしまいます。


『もしもし、突然申し訳ございません。……今、兄に届け物があって、兄の会社に来ていたんです。』


「お兄さんの会社ですか?」


 千和の兄の会社。浩太郎との関係もあり、理事長が千和を誘導するネタに使われたこともあるので身構えてしまいます。


『はい。……それで、楓さんと紅葉さんの苗字は水瀬で間違いありませんか?』


「ええ、水瀬楓さん、水瀬紅葉さん。……ですわ。」


 会社の話から、楓たちの苗字の話になり全然意味が分かりません。千和も少し興奮している様子なので、順序立てて説明が出来ていませんでした。

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