第63話

 前世では、理事長の思惑通りに進んでしまい、ソフィア・シェリングが魔法学園の総代表に選出されてしまいました。

 誇らしげに演説をするソフィアを憎しみを込めた瞳で見つめるビアンカ・オリアーニから『目立っていれば能力は関係ない』という考えが消えることはありません。

 そして、政治家である父親とは和解できず、優秀な姉への劣等感を抱いたままになってしまいます。


 ソフィアを処刑に追い込んだ張本人ではありませんでしたが、ビアンカも関与していたことに間違いはありません。



「倉本さんが、以前に選挙に負けたことをお話したと思います。」


「ええ、『目立ちたかっただけの人』が当選してしまったお話は覚えております。」


「その時、お父様に『人気だけで決まってしまう生徒会なんて意味がない』ってお話をしたみたいなんです。」


「きっと、悔しかったんですね。」


「……ですが、お父様から『お前は分かっていない』と言われてしまって、仲違いしてしまったんです。」


 千和から話を聞いていた彩音、澪、悠花、渉美は揃って寂しそうな顔になってしまいました。生徒会選挙で親子の仲が悪くなってしまうことが悲しかったのです。


「倉本さんは、どうして『分かっていない』なんて言われてしまったのでしょうか?」


「そうですわ。落選した後で、そんなことを言われてしまっては倉本さんもショックだったはずですわ。」


 澪と悠花が、倉本沙織の気持ちを代弁するように言いました。聞いた話をしいているだけだった千和は苦笑いをして続けます。


「ええ、その通りなんですが……。倉本さんは今回のことでお父様の言葉の意味が分かった気がすると話してくれたんです。」


「……今回のことで、分かったんですか?」


「はい。お父様は『何か事を為す時には周囲からの応援が必要になる』ことを倉本さんに知ってほしかったらしいのです。」


「……?」


 理解できていなさそうな顔をしている他四人を見て、説明を補足します。


「一人で必死になっても、できることは限られているから味方を作ってほしかったみたいです。周囲の人を味方につけることができて、初めて大きな望みを叶えることになる。……と、言いたかったみたいです。」


「人気も必要ということでしょうか?」


「人気だけでもダメですが、人気がなければダメということだと思います。……学園のために頑張ろうとしている倉本さんの意思と、彩音様たちが推薦してくれたことで周りが盛り上げてくれる雰囲気。両方が必要になるんです。」


 ここまで黙って話を聞いていた渉美が、


「だったら、最初にそう言ってあげてれば、親子でケンカすることもなかったのにね。」


 と、言ったことに、皆は同意して何度も頷きました。

 少ない言葉で理解してもらいたかったのかもしれませんが、落選して落ち込んでいる時にはダメージを与えるだけで逆効果です。


 ただ、実際の親子の会話では、


『父さんも、あの時は言葉が足りていなかったと思う。すまなかったな。……おめでとう。』


 と言われて、溝は埋まることになりました。


「……倉本さんが『力を貸してほしい』と言ってくれたことは、すごく嬉しかったです。」


 まだ時間は必要かもしれませんが、倉本沙織とも仲良くなれるチャンスが生れたことになります。

 彩音が嬉しそうに漏らした一言で、皆も笑顔になり生徒会の件は終わりとなりました。



 ただ、これは倉本沙織の話であり、ビアンカ・オリアーニの親子喧嘩は収束することはありませんでした。

 倉本沙織に用意されていたビアンカと同じ闇堕ちルートは知らず知らず回避されていたことになります。

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