第56話

「いろいろと予想外なことがありましたわ。」


 お茶会の翌週に開かれた定例会議は澪の言葉で始まりました。千和との話もできて、進展があったばかりとは思えないような重苦しさがあります。


「今、分かっていることを整理してみませんか?」


 悠花の言葉に、彩音と澪が同意します。


「私は、ソフィア・シェリング。澪さんは、カトレア・レイモン。悠花さんは、デイジー・メルシェン。……前世も今も、この三人の関係は変わらない。」


 三人の名前は確実に思い出せています。貴族の娘として、甘やかされて育ってられていたことも共通しています。


「領主だったコルネーユさんは、島崎さんになっていて、私たちの記憶を取り戻すきっかけになっていると思います。」


「理事長は学園で、彩音様が処刑されてしまう何らかの原因を作ってしまった可能性があります。」


 三人以外で転生してきた人物は、間接的に関係している要素があります。外見的な特徴も一致しているので、顔を見ると記憶が甦ってくることも同じでした。

 そこまでは、今までの考察で判明していることになります。


「ですが、倉本沙織さんも、前世で関りがある方だったなんて思いもよらなかったことです。……たしか、ビアンカ・オリアーニさん。」


 生徒会に推薦するために千和に案内されて倉本沙織のクラスに行った三人は驚きました。その顔には見覚えがあり、記憶は前世のものへと繋がっていきます。


 ただ、彩音たちの友人にビアンカ・オリアーニの名前は記憶されていません。ただ、魔法学園の同学年でいたことは間違いありません。


 小柄で腰まである長い髪、意思の強そうな少し太めの眉毛。そして、彩音たちに気付いた時に見せた敵意の込められた瞳。全てが甦った記憶にあるビアンカと同じでした。


「倉本さんも、私たちと何か関係があるのでしょうか?」


 島崎や理事長のように、彩音を処刑までのルートに導く存在であれば厄介なことになります。


「このまま、倉本さんを生徒会に推薦してしまっても大丈夫なんでしょうか?……澪さんと悠花さんはどう思われますか?」


 彩音から聞かれても、二人は言葉が続けられませんでした。倉本とも関りがあるかもしれない以上、この選択は難題になってしまいます。


「……千和さんとも、詳しく相談してみた方が良いのかもしれませんわ。」


 澪から絞り出すように出てきたのは、それだけでした。

 生徒会選挙まで日がないので、悠長に考えていることもできません。

 彩音たちが倉本沙織を推薦するか、推薦しないか。しないのであれば誰を推薦するのか。前世と無関係であれば、答えは簡単なのですが、慎重になってしまいます。



「それと、楓さんが高校に進学されないことも意外でしたわね。」


 このことを彩音から聞かされていた悠花がポツリと漏らします。

 全く無関係のことのようでもありますが、これから発動させようとしていた計画に影響が出てしまいます。


「そうですわ。……楓さんとお話していると、頭の良い方だとは思っていたので、進学されるものだと思っていました。」


「ええ、聖ユトゥルナ女学園以外のことを直接お聞きできるのは楓さんだけでしたのに……。」


 聖ユトゥルナ女学園は外部との交流が少なく、閉塞的な空間になっています。

 そのことに疑問を抱くことは、今までありませんでした。ただ、理事長との一件以降、彩音たちには様々な事柄が気になり始めています。

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