第40話
タエが『期待に添える』と言った理由は浩太郎の会社が登場したことにあります。
彩音から調べることを依頼された内容に、浩太郎の会社が出てきてしまえば関連性が生れたことになります。彩音が調べる目的を伝えていなかったとしても、勘の鋭い人間であれば気付くことがあるのかもしれません。
「タエさん、申し訳ございませんが、少し一人にしていただけないでしょうか?」
「……かしこまりました。何かございましたら、またお呼びください。」
タエは静かに部屋を出ていきました。
――自分の力でも解決方法を導き出したいと思っていましたが、こんな難しい話になるなんて思ってもいませんでしたわ。
周りが成長していく中で考えることを止めてしまうと、自分が取り残されてしまうような不安があります。
「瀧内千和さんのお兄様の会社が、お父様の会社と関係していることは分かりましたわ。……ですが、学園には関係ありません。」
彩音一人で考えるにしても、彩音には根本的に欠落していることがあります。社会のドロドロとした話から隔絶された環境で綺麗に育っているとズレが生じてしまいます。
「テストでの裏工作と、お父様の会社がどのように関係してくるのでしょうか……?」
肝心なポイントで結びつけて考えることができません。
所謂『取り巻き』的に近付いてくる人たちの狙いが彩音にはイマイチ分かっていませんでした。会社を経営しているのは父の浩太郎であり、自分は関係ないとしか思っていません。
「…………。」
しばらく悩んでみても、無関係だと思っているものを線で結ぶことは不可能です。
「……あっ、そうですわ。調べた結果は楓さんにも伝えておかないといけませんわね。」
相談するためではなく、報告するためだけに連絡をするのであれば考えることを放棄したことにはなりません。
すぐに電話は繋がって、楓の声が聞こえてくると落ち着きます。タエから聞いた話を簡単に要約して伝え終わると、
『こんなにも早く調べられたんだ、すごいな。……でも、
「もしかして、これだけの情報でお分かりになったのですか?」
『えっ!?……分かってなかったのか?普通は想像出来るだろ?』
楓の言葉でも、彩音は少しムッとしてしまいました。
「普通ではないようなので、申し訳ございません。」
丁寧な言葉ではありますが、ふくれっ面になって拗ねたように言っている姿は珍しいです。
『あぁ、悪い。……お嬢様だからズレてても仕方ないよな。』
さらにムッとします。普段から『お嬢様』と呼ばれることはあっても、楓が使う『お嬢様』のニュアンスが違っていることは感じ取れています。
「……そのズレている私にも理解できるように、教えてはいただけないでしょうか?」
『あっ、いや、そんなつもりじゃ……。当事者同士だと分からないこともあるから、仕方ないかも。』
怒ったような彩音の話し方に楓も気付いて、適当なフォローを入れてきます。
『まぁ、簡単に言えば、九条さんのお父さんがやっている会社はすごく大きいってことなんだ。会社で取引することになっても、九条さんのお父さんが圧倒的に上の立場になる。』
「同じ社長なのに、立場が違うんですか?」
『同じなんかじゃ、ないよ。』
その時の楓の言い方が彩音には寂しそうに聞こえていました。
『瀧内さんって人のお兄さんは、九条さんたちの機嫌を損ねてしまうことは絶対に避けたいんだ。……そのことを瀧内さん本人が知ってしまったら、九条さんよりも成績が上になることを気にするかもしれないね。』
「そんな。お父様のお仕事のことじゃないですか?学園の成績で瀧内さんが私より上位だったとしても……。」
『関係あると思っちゃうんだよ。下にいると上の顔色ばかりを窺うようになるんだ。』
彩音は『上』と『下』に区別されてしまっていることが悲しくなっていました。前世で貴族であったソフィアのように明確な身分制度で区切られた世界とは違うと考えていました。
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