第38話
もっと落ち込んでいる二人を想定していた彩音はドラマチックな演出でお礼を言おうと考えていましたが、思い止まりました。
「前世のお話は、また別の機会にするとして……。悠花さん、澪さん、お二人がテストで良い成績だったおかげで理事長の思い通りにならない結果になりました。ありがとうございます。」
お礼を言われるようなことに覚えがなかった二人は、少し唖然としてしまいます。
「……理事長の思い通りにならなかった……とは、どういったお話なんでしょうか?」
「おそらくは、私を一番にするために理事長が何かしていたはずなんですわ。……あのまま私が一番になってしまっていたら、理事長を喜ばせてしまう結果になっていたと思うのです。」
「……ですが、私が一番になれたのも、澪さんが二番だったことも、偶然の出来事でしかありませんわ。」
「ええ、それでも、お二人がいらっしゃらなければ、その偶然も起こらなかったのです。少しだけ運命的に考えるのであれば、三人が揃って生まれ変わったことが偶然を呼び寄せたのかもしれませんね。」
彩音がニッコリと笑いかけながら二人に語りかけます。
――「運命的」だなんて、少し大袈裟な言い方になってしまいましたわ。
そんなことも考えてしまいましたが、前世のつながりそのままに生まれ変わった三人の目的は同じです。その三人が一緒に問題を解決するのであれば、偶然は偶然でなくなります。
「……悠花さんを私は彩音様をお守りできたということでしょうか?」
「そうですわね。お二人に守っていただけたので、私は理事長からの強引な要求を回避することができたのです。」
彩音からの言葉を受けて二人の表情がパッと明るくなりました。無意味になってしまうはずだったテストの結果が彩音を守っていたことになれば報われます。
――今回のことだけではありませんね。……もし、前世の記憶を取り戻した時に一人きりだったら、とっくに挫けてしまっていたかもしれませんわ。
楓の言葉を都合よく拡大解釈してしまえば、『二人の存在そのもの』に感謝すべきなんだと思いました。
そんなことを考えていると、悠花と澪が彩音の手を突然握ってきました。
「彩音様、私たちに出来ることがありましたら、何でもおっしゃってください!」
「私たちは彩音様をお守りするために、ずっと一緒だったのかもしれません!」
必要以上に二人の気持ちを盛り上げてしまって、火をつけてしまったことになります。落ち込んでいる姿は見たくなかったのですが、この二人も予想以上に単純な性格だったようです。
――でも、タエさんがおしゃっていた『心を動かす』ことだったのかもしれませんね……。私たちは、変化のない毎日を繰り返していただけかもしれません。
前世の話で盛り上がったり、彩音を守るためにやる気を見せたり、そんな素直な反応を楽しいと感じていました。
「ありがとうございます。……私もお二人に何かあれば、全力でお守りしますわ。三人で乗り越えていきましょう。」
楓が『お礼を伝えた方がいい』と教えてくれたことで、三人の絆が深まったようです。
そして、学園から戻った彩音を不敵な笑みを浮かべたタエが待ち構えてくれています。
「き、着替えを済ませてから……、お聞きしますわ。」
「承知いたしました。」
彩音の世話をしていたり、屋敷のことで動き回ったりするよりも、タエが生き甲斐を感じる仕事だったことに気が付きました。
タエの横を通り過ぎる時に、
「……ご期待に添えるかと存じます。」
と彩音にだけ聞こえるくらいの小声で報告がありました。
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