第37話

 次の日、彩音に『おはようございます』と挨拶をする二人には元気がありません。

 テストの結果で落ち込んでいると思っていましたが、理由はそれだけではありませんでした。どうやら二人揃って同じ夢を見てしまったらしいのです。


 その夢はソフィアとの学園生活の一部です。


「……夢の中で、ソフィア様は魔法実技の成績が悪かったんです。魔法の資質はあったのですが、ほとんど使えないご様子でしたわ。……澪さんも全く同じ夢を見ていたみたいで、少し困惑しております。」


「そうなんですか?お二人が揃って同じ夢を見ていたのであれば、前世の記憶の可能性が高いと思うのです。手がかりを得られたかもしれないのに、どうして困惑されているのですか?」


「当然ではありませんか!彩音様の前世であるソフィア様に、そんな弱点があるなんて悔しいじゃありませんか。」


「……どうして、悠花さんが悔しがるのでしょう?」


 ソフィアに苦手なことがあったとしても悠花や澪が困ることはないはずです。それも前世の出来事を現在進行形のように悔しがる様子が不思議でした。


「ソフィア様はすごい魔法を使えるのに、使ってしまうと大変なことになるので使わない的な展開が理想だったんです!」


「そうですね。ソフィア様がいつもドジをしてしまい、魔法で問題を起こす的な展開も良いかもしれませんわ。」


 悠花と澪は、異世界ファンタジー要素をソフィアに担ってほしかったのだと知ることになりました。それぞれが物語を作っていたらしく、その展開から外れてしまったことを残念がっていました。


「……はぁ、理想的な展開ですか?……なかなか難しい要求ですね、それは。」


 ただ悩んでいるだけではなく、二人が楽しめていたと思うと彩音は嬉しさがあります。


――このお二人は意外に逞しいのかもしれませんね。


 こんな状況でも楽しいと思えることがあれば、三人で乗り越えることはできるはずです。

 ただ、今の状況を好転させる努力はできますが、前世のソフィアを成長させることはできません。


「……ですが、魔法が使えないのに魔法の学校に通う意味があるんでしょうか?……運動神経が悪い人が、体育大学に行っているみたいなことなんですよね?」


 彩音の例えを聞いた二人はクスクスと笑っています。彩音としては真面目に考えて出した言葉だったので多少不本意ではあります。


「……おそらく、そんな感じになると思いますわ。」


 澪が返事をしてくれます。二人だけで楽しんでしまっていることに気が付いて、落ち着きを取り戻した感じです。


「それにしても、前世で魔法が苦手だった私は、魔法の学校で落ちこぼれだったのですね。」


「えっ!?」


 彩音の解釈に二人が同時に驚き、顔を見合わせました。


「……落ちこぼれ……という雰囲気はありませんでした。……すごく堂々とされていた印象です。……澪さんは?」


「私も同じです。……魔法が苦手なことで落ち込むようなこともなく、みんなの中心にいました。」


「そうなんですか?……ソフィアって、すごく図太い性格の持ち主だったんですね。……それとも、何か特別扱いを受けていたんでしょうか?」


 ソフィアも位の高い貴族であったらしいので、特別扱いが問題でした。この単語が前世と現世をつなぐキーワードになりつつあります。

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