第20話
せっかく気を使ったメイドたちからすれば、最悪のタイミングで部屋を出たことになってしまいます。ただ、そんな気の使い方をされているとは知らない彩音には関係のない話ではありました。
「……んっ?」
応接室から出てきた彩音たちに父の浩太郎は気付いて、少しだけ怪訝そうな顔をしました。澪や悠花が一緒にいることは見慣れていたのですが、今日は見慣れない二人がいます。
「……んっ?……んんっ!?」
楓と紅葉を見つめて、驚いた表情に変わっていきます。傍で働いていたメイドが浩太郎の態度の変化を見て、少しだけ焦っています。
浩太郎は、すごい速さで移動をして楓の前に立ちました。間近で楓の顔を見てから、紅葉を見ます。
「あぁ!君たちは、あの時の兄妹だね!……よかった、探していたんだよ。あの時と雰囲気が違っていたから、最初は誰だか分からなかったよ。」
この場にいた誰もが驚いて浩太郎の反応を見ていました。メイドは『あれ?』といった感じで、予想外過ぎる状況に対応しきれていません。
少し遅れて母の知世も接近しており、紅葉の手を取って喜んでします。
「あれから、ずっと気にしていたんですよ。……せっかくの可愛らしいお洋服も零れたジュースで汚したまま帰ってしまって、大丈夫でしたか?」
浩太郎と知世の勢いに三人は何が起こったのか分からず、立ち尽くして言葉も出ません。それは、楓や紅葉も同様でした。
「あの後はバタバタと慌ただしくなって、君たちにお礼を言うことも出来なかった。……本当に、あの時はありがとう。」
「彩音、澪さんも悠花さんも、こちらのお二人が気を失ったあなたたちを一生懸命に介抱してくださったのよ。」
三人とも、気を失った後のことは聞かされていません。
目を冷ましてからも前世の記憶ばかりに意識を向けれてしまい、『三人が同時に気絶したことで騒ぎになったかもしれない』程度にしか考えていませんでした。
「……お二人は、私たちのお見舞いに来てくださったんです。……可愛らしいお花も頂戴してしまいましたわ。」
やっとのことで彩音が両親に状況説明をすることが出来ました。
「突然の訪問で申し訳なかったんですが、妹が気にしていたので……。三人の元気な姿も見れましたので、これで失礼させていただきます。」
楓は、落ち着いた丁寧な口調で浩太郎に伝えました。
「えっ?……もうお帰りなんですか?」
知世が紅葉の顔を見ながら残念そうに囁きました。囁き声が届く場所にいる紅葉はコクリと頷きます。
そこで何かを浩太郎は言いかけましたが、
「浩太郎様、お話し中に申し訳ございません。……聖ユトゥルナ女学園の理事長がお見えになっているのですが、いかがいたしましょう?」
という慌てた様子でやってきたメイドの言葉に遮られてしまいました。
これには彩音たち三人が驚いてしまいます。学校が休みの日に自分たちの通っている学園の理事長が、何の前触れもなく訪問してきたのです。理事長が浩太郎と話をしなければならないようなことに彩音は身に覚えもありません。
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