第19話

「……楓さんは、いろいろとお詳しいですが、お歳は?」


「アンタらと同じで14歳。……紅葉は、9歳。」


 ちょっとオドオドしながらの悠花の質問に、ぶっきらぼうな返事がありました。普通は最初に疑問を持つべきことかもしれません。


「まぁ、私たちの年齢をご存知でしたのね。」


「アンタらが倒れた時、14歳の誕生日パーティーだっただろ?」


 感嘆の声を上げた澪も、残念な対応をされてしまいました。本人たちも楓の口調は荒っぽいと言っていたので、ある程度は覚悟していたのかもしれません。


――どうしてお二人は、楓さんの歳を聞いたのかしら?


 彩音にとっては聞くまでもない質問だったということになります。これまで、楓が同じ歳である情報は聞いていないはずでしたが、以前から知っていたことのように感じていました。


 すると、ドアをノックする音が部屋の中に響きました。


「……お父様とお母様がお戻りになったみたいです。」


 彩音は、メイドがわざわざ伝えに来た意味が分からず不可解な表情を浮かべながら椅子に座りました。


「お出かけされていたのですか?」


 澪も、いつもと違う様子であることを感じて声をかけます。


「ええ、朝から用事があって出かけておりました。……ですが、いつもは戻ってきても報せに来ることなんてなかったのに。」


 忙しい両親なので、出かける時も帰ってきた時も報せに来ることはありませんでした。彩音も気にすることはなく、改めて確認することなどしません。


「あぁ、俺たちは、そろそろ帰るよ。」


 メイドの意図を汲み取ったのは楓でした。

 紅葉の存在があったとしても、異性である楓を屋敷に招き入れていることにメイドが気を使ったことに楓は気が付いたのです。

 この屋敷に足を踏み入れた彩音と同年代の男は、楓が初めてのことでした。


「えっ!?……ですが……。」


「紅葉もアンタらの元気な姿を見ることが出来て、納得してる。……これ以上、邪魔しても悪いからな。」


「……ですが、せっかくお越しいただいたのに。」


「えっと、ケーキおいしかったです。ごちそうさまでした。」


 椅子から立ち上がった楓を見て、紅葉も彩音たちに挨拶をして立ち上がります。

 これ以上、留めておく言葉が彩音には思いつきません。


――どうしましょう……。このまま帰ってしまえば……。


 彩音の気持ちは焦っていましたが、楓の協力を仰ぐことには澪と悠花が乗り気ではありません。彩音自身も何故こんなにも落ち着かない気持ちになっているのか分かっていませんでした。


「ごちそうさまでした、ありがとう。」


 楓が言った後、『ほら』と紅葉の背中を押しました。


「……えっと、お姉ちゃんたちが元気になってて嬉しかった……、です。」


 この言葉を伝えるために来てくれていたのかもしれません。

 紅葉にとっては、この言葉を三人に直接伝えられたことだけで満足でした。紅葉は嬉しそうに楓を見上げて、『ちゃんと言えた』と報告をしています。


「ありがとうございます、私たちも紅葉さんとまたお会いできて嬉しかったです。」


 彩音が言うと、悠花と澪も続けて紅葉にお礼を言いました。

 これで紅葉のお見舞いは完結したことになり、彩音は引き留めることを断念するしかありませんでした。


 楓と紅葉を見送るため部屋を出た時、五人は彩音の両親と遭遇することになってしまいました。

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