第5話

「……私が悪役的なポジションだとしたら、主人公は誰になるんでしょうか?」


「彩音様……、ソフィア様を追い込んだ人物になるのではないかと思うのですが、お心当たりはありませんか?」


 彩音の処刑シーンで盛大な演説をして観衆を煽っていた人物の姿が甦ってきます。


「……『革命の女神』。……お名前やお顔は思い出せませんが、そんな方がいらっしゃいました。」


 悠花と澪は顔を見合わせて頷いていました。


「私たちの記憶にも、『革命の女神』と呼ばれている方が登場しておりました。」


「その方が、あの世界での主人公ということでしょうか?」


「そうなるのかもしれません。……ですが、肝心なところは思い出せていないので、彩音様……、ソフィア様が処刑されてしまった原因が私たちにも分からないんです。」


「私も処刑された瞬間の印象が強すぎて、他のことの記憶は途切れ途切れにしか思い出せてはいないんです。……ですから、私がどんな罪で処刑されたのかは分かりません。」


 本当に何も分かっていない彩音にとっては、そこまで深く考える余裕はありません。悠花は考え込むような表情を見せていましたが、更にこんな質問をしました。


「……ですが、どうして三人が同じタイミングで、前世の記憶を呼び起こされたのでしょう?……何か意味があるのでしょうか?」


 前世で一緒だった三人が時を同じくして生まれ変わり、同じ瞬間に記憶の一部を思い出した意味。

 そんな意味があるとは到底思えませんでした。


「本当に、単なる偶然かもしれませんわ。……悠花さんには何か思い当たることがあるんですか?」


「思い当たることは何もないのですが、気になっていることはあるんです。」


「……気になっていること……ですか?」


「はい。……私が以前読んだ本の『異世界転生』では、亡くなった後にファンタジー世界で生まれ変わっていたのですが、私たちの場合は逆になっていると思うのです。」


「……ファンタジー世界ですか。……処刑台の周りの景色は、そんな感じでしたわ。」


「澪さんと私が思い出した記憶では、元の世界では魔法も使えたんです。……ですから、『異世界転生』する順番が逆ではないかと気になっていたんです。」


 魔法も使える世界で貴族令嬢として生きていたのであれば、ファンタジー要素を押さえていることになります。

 現代日本で亡くなった人が、ファンタジー世界で生まれ変わることとは逆になっていると悠花は説明してくれました。


「それに、私が読んだことのある本では、生まれ変わった世界で色々な事件が起こってしまって、前世の記憶からヒントを得て活躍することになるんです。」


「えっ!?……私には今の生活で活かせるような記憶は戻っていないのですが……。」


 処刑の時の悲惨な映像しか思い出せていない彩音には有効活用できる情報は全くありませんでした。

 気分を暗くするだけの記憶であり、思い出さずに過ごせていた方が間違いなく幸せだったはずです。


「……でも、普通に生活をしているだけで事件は起こっていないのですからヒントなんて必要ありませんわ。」


 少しだけ重苦しくなりかけていた空気を打ち壊すように澪が明るく二人に語りかけました。


「そうですわね。この平和な日本で前世のようなことは起こるはずないのだから、このまま幸せに暮らせますね。」


 悠花も澪の言葉に続いたが、実際には前世との関係を繋ぐ細かな事件は起こり始めてしまっていました。その引き金になっていたのは、14歳の誕生日に発した言葉だったのです。

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