38.パーティランク
パパの【転移魔法】で飛ばされた場所はルクスの街の前だった。最初に転移された時よりも近い場所だ。
ここだとギルドにも早く戻ることができる。誰も怪我をせずに戻ってこれたのはよかった。
今回のことで、魔族と他の種族が仲良くなればいいのだけれど、どうなるかなんて分かるはずもない。もしかすると、話し合いで問題が起こるかもしれない。
街を歩いていると、いつもと変わらない日常を送る人々がいる。私を見ても気にしなくなった人も増えた。
もしかすると、今後私以外の魔族が普通にこの街を歩いているという未来もあるかもしれないのだ。
ギルドについて、中に入ると受付にいたベルさんがすぐに気がついてくれた。私たちの顔を見て、とても安心したような顔をした。
それもそうだろう。最悪の場合戻ってこないという可能性もあったのだから。
「おかえりなさい」
「ただいま」
「ルーズさんは部屋にいますよ。ギルドカードを更新しておきますので、提出してから部屋に行ってください」
今回フォレストコングを倒したことによって、全員レベルが上がっているかもしれない。
いくらレベルが上がりにくい世界であろうと、レベルが高いモンスターを倒せば少しは上がりやすくなっている。私はどうかは分からないけれど、リカルドたちは上がっているだろう。
ベルさんにギルドカードを提出してから階段を上がる。
扉をノックすると、ルーズさんの返事がすぐに返ってきた。扉を開いて姿を見せると、ベルさんと同じように安心した顔をした。
そりゃ心配して当然だろう。勇者と魔王がいる場所に向かったのだから。無事に帰ってくる保証もなかった。それを分かっていて送り出していたはずだ。
「おかえり。怪我もなさそうで安心したよ」
そう言ってソファに座るように促されたので、いつもと同じ場所に座ることにした。
リカルドは座る前に【
黄色い粉の入ったただの瓶だけれど、それが大きい個体のモンスターを生み出す原因となったものだ。
落としてしまわないようにと、ルーズさんは机の引き出しの中に瓶をしまった。私たちとの会話が終わったら、それを調べてもらいに行くのだろう。
「それで、どうだった?」
増巨剤を使ってモンスターを大きくしていたネブラは捕まり、一緒にいた仲間も捕らえられたこと。
そして、これから勇者と魔王は話し合いをするということを話した。
その話し合いによっては、今後魔族との関係がよくなるかもしれないし、悪くなるかもしれない。
話し合いにリーナが参加していれば、話し合いにはならないだろうから参加はさせていないと思う。
あの様子だと、誰が何を言ったとしても言うことを聞かないだろうし、パパに話をさせようとはしないだろう。
話し合いの結果がいつどのように分かるのかは不明だけれど、いい結果になるように願っていることしかできない。
「それにしても、あのリーナって子は凄かったね」
「私よりも酷い魔族嫌いよね」
流石のノアさんでもリーナさんには驚いたようだ。リーナさんのことを知らないということは同じ村出身ではないのだろう。
きっと、エルフ領出身なんだと思う。それなら、どうして魔族を嫌うのだろうか。
エルフの村を襲ったということを聞いて嫌いになったのかもしれないけれど、ノアさん以上に嫌っている様子を見ると何かあるのかもしれない。
「マーキスくんの仲間のリーナくんか。彼女は誰にでもああだよ。自分が正しいと思ったことが正解だと思っている子でね。関わらないことが一番さ」
どうやらルーズさんは、リーナさんとはなるべく関わりたくないようだ。話しを聞かないということもあって、きっとルーズさんが言っていることは本当なのだろう。
魔族が悪いと信じているから、討伐する。多くの人が違うと言っても信じない。自分が正しい。
きっと、そんな人は多くいる。リーナさんだけじゃない。
「フォレストコングと戦うこともできたので、いい経験はできた。いつかレベルとランクを上げて討伐依頼で魔族領には行きたいかな」
「よく怪我しなかったな」
ルーズさんが驚くのは当然だ。フォレストコングを倒せるだけのレベルが足りていないことは知っているのだから。
倒して気絶させてという方法を使ったから偶然無傷でいられただけ。本来なら大怪我をしていてもおかしくはないし、戻って来れなかった可能性もある。
リカルドが言うように討伐依頼で倒すには最低でもランクをAに上げなくてはいけない。先はまだまだ長い。
「さて、お前たちにはいい加減休んでもらうからな」
本当は依頼を受けることなく休んでいる予定だったのだけれど、依頼を受けることになって休めなかった。今度こそ休めるはずだ。
ノアさんとノエさんは一度エルフの村に戻ると話している。私ももう少し落ち着いたら帰ってみようと思う。
報告を終えて、部屋から出る。一階に下りると、ベルさんに声をかけられてギルドカードを返してもらった。
みんなのレベルがひとつ上がっていた。そして、私のランクはCに上がっていた。ということは、パーティランクが全員Cになったということだ。
これで、私がパーティに入る前のランクに戻ったということだ。
「貴方がアイさんですか?」
「そうですけど……貴方は?」
「はじめまして。今日は貴方に依頼をお願いしに参りました」
突然知らない男性に話しかけられて驚いた。
彼はわざわざ私に依頼をしに来たらしい。でも、私を指名するということは魔族でも信頼して貰えるようになったということかもしれないと思った。
本当は休む予定だったけれど、この人の依頼を受けてからにしよう。
私は冒険者になって初めて、指名依頼を受けた。依頼内容は簡単なものだったけれど、信頼してもらえるようになった証だと思うととても嬉しく思った。
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