33.超巨大化
廃坑内から聞こえてくる足音の響きが小さくなり、モンスターが姿を現した。
それはまるでたわしのように見えた。けれど、大きくなったイビルラットだということがすぐに分かった。
予想していた通りのモンスターだったけれど、こんなに大きいとは思ってもいなかった。サイズはゾウくらいだろう。もしも二本足で立ち上がれるとしたら、もっと大きい。
長い尻尾を引きずりながら、ゆっくりと歩いている姿は少々可愛らしく見えるけれど、爪と牙がとても鋭い。小さいイビルラットよりも鋭いそれは、増巨剤によって巨大化したことにより進化したのかもしれない。
鼻をひくひくさせながら「ギィギィ」と鳴いているその声はとても低い。
「超巨大化してるじゃないか」
目を見開いて驚いているグレンさんは、銃剣をイビルラットに向けている。向かってきたらすぐに撃てるようにだろう。
まだ攻撃をしてくるようには見えないけれど、先ほどの鳴き声からイビルラットは興奮していると思う。
突然おかしな粉をかけられて、視界が高くなれば理解するまでに時間がかかるだろう。それにイビルラットは知能が低いと言われている。理解することはできず、ただ自分に粉をかけたのは人だということしか理解していないかもしれない。
そうなると、人の姿をしたものに怒りを向けるだろう。それが超巨大化させた人ではないとしても、関係はないだろう。
「ギィギィギィ!!」
どうやら匂いで私たちの存在に気がついたらしい。叫び声をあげると突進してきた。グレンさんだけを残して、私とシルビアさんは左に、リカルドとノアさんとノエさんは右に避けた。
残ったグレンさんは、狙いを定めて額の魔石に向けて撃った。一発ではなく、続けて五発。それでも魔石は割れず、イビルラットは止まることなく突っ込んで行く。ギリギリでグレンさんが左に避けると、急ブレーキをかけたイビルラットは大きく叫び声をあげた。
どうやら自分の攻撃が当たらなかっただけではなく、攻撃されたことに怒っているらしい。
振り返ったイビルラビットの額からは僅かに血が流れていた。魔石は砕けてはいないけれど、傷ついているように見える。
「効果はあるみたいだな」
超巨大化したことによって毛が固くなって攻撃が効かないというわけでもないようで、このまま攻撃を続けることにした。ただ、動きが思ったより早いので動きを封じなくてはいけない。
「氷魔法は誰が使える!?」
「私!」
「私も使える!」
リカルドの言葉に答えたのはノアさんと私だった。氷魔法ということは動きを封じればいいのだろう。
動かなくしてしまえば、巨大なイビルラットであっても私たちの敵ではない。
リカルドとグレンさんとシルビアさんで私たちの方にイビルラットが来ないように注意を引いている。
ノエさんも離れたところから魔法で攻撃している。今使っているのは風魔法の【カマイタチ】だろう。リカルドたちがいるので、少し控えめのようだ。
イビルラットは一度攻撃をしてくると攻撃が早く、リカルドたちも避けるので精一杯のようだ。
私とノエさんは目配せをして同時に詠唱をはじめた。詠唱は長くはないけれど、タイミングを計らなくてはいけない。
「彼の者の動きを封じよ。【アイスフィールド】!!」
詠唱を唱え終わったと同時にリカルドたちがイビルラットから距離をとった。イビルラットは叫び声をあげているだけで動きは止まっている。
魔法で動きを止めるには丁度良かった。【アイスフィールド】は、地面を凍りつかせて対象者の動きを止めるものだ。
イビルラットの四本の足は凍りつき、動こうと暴れているが簡単には動けないだろう。見ると、人でいう足首あたりまで凍り付いている。
動けなくなってからの行動は早かった。ノアさんはそのまま弓で遠距離攻撃を始めて、近くにいるリカルドたちに攻撃させないように気を逸らしていた。
私も動かずに、氷魔法【アイシクル】で攻撃する。これは氷柱を飛ばして攻撃するもので、当たった場所は凍る場合がある。
近くにいるリカルドとグレンさん、シルビアさんで交互に攻撃していく。リカルドの双剣で魔石を集中的に攻撃し、鋭い牙で噛みつこうとするとシルビアさんが間に入り盾でリカルドを守る。その隙に高く飛びあがったグレンさんが銃剣で魔石を撃ち抜く。
何度か同じ攻撃を繰り返していると、パキンと音をたてて魔石が砕けた。それと同時にイビルラットは動きを止めて大きな音をたてて倒れた。
「倒せたの?」
「ああ」
両手で杖を持ってイビルラットに近づいたノエさんがリカルドに問いかけると、短く答えた。
近づいてイビルラットに触れてみると、毛は鋭く、力を入れれば刺さるほどだった。
まるで剣山ね。
これに突進された時に逃げ切れなかったら、串刺しになっていただろう。
振りかけられた増巨剤の粉がついていないかと確認してみたけれど、何処にもついていないようだった。もしかすると増巨剤は、体に吸収されて効果が出るものなのかもしれない。
実物を見たことがないので、色も分からない。もしも茶色だった場合、粉がついていたとしても同じ色で分からないだろう。
「これはどうするニャ?」
持って行くか、持って行かないかを聞いているのだろう。【
あまりの早さに、【
「今までのモンスターとは違って、イビルラットは超巨大化していた。もしかすると、増巨剤の効果が強すぎて体が耐えられなかった……のかな?」
どうしてこんなに早く姿を消してしまったのかなんて誰にも分かるはずはない。今の出来事を報告するためにギルドに向かうことになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます