21.全員集合
「よかった。目を覚ましたんだな」
「声をかけても反応なかったから、心配してたんだからね!」
「フィンレー兄様が迷惑をかけてごめんなさい!」
ソファに座る私を見つけて駆け寄ってくる三人だったけれど、グレンさんに「手を洗ってこい!」と怒られて、私が反応する前に離れて行った。
服は汚れていなかったので、もしかするとブルーウルフだけではなく、モンスターに遭遇することはなかったのかもしれない。
最初に戻って来たのはリカルドだった。怪我をしている様子もない。
「まず、これを返しておくよ」
そう言って【
そういえば、【
角が折れてからの記憶がないので、メモリーバットが何処かに行ってしまわないように【
私のメモリーバットは映像を完全保存してあの事件の出来事を消さないようにしているので、危険を感じると何処かへ飛んで行ってしまう可能性があるのだ。そのことを知っていたのかは分からないけれど、【
受け取ったメモリーバットは丸まって眠っている。優しく撫でてから、起こさないように【
「アイがフィンレーさんに攻撃された時、羽ばたいたから逃げちゃうと思って捕まえたんだ」
その判断は間違っていない。実際、逃げようとしていたのだろう。捕まえるのが少しでも遅ければ、手の届かない場所まで飛んでいただろう。
何処かへ飛んで行ってしまっても、戻ってくる子もいる。けれど、この子が戻って来るとは言い切れない。逃げてしまう前に捕まえてしまうのが一番だ。
「アイ!」
「アイちゃん怪我はない!?」
手を洗い終わったノアさんとノエさんが一緒にやって来た。
それよりも、ノアさんに名前を呼ばれたのは初めてかもしれない。今までは呼ばれなかったか、『あんた』と呼ばれていた気がする。
これは、完全に認められたと判断していいのだろうか。
「角も治してもらったし、何処も怪我してないよ」
「よかった……」
ノアさんが声をかけても反応がなかったと言っていたから、ノエさんも心配していたのだろう。
安心したように息を吐いた。
「フィンレー兄さんのことは、ごめんなさい。本人に謝らせたいんだけれど、エルフの村に帰っちゃって……」
「怪我してないから気にしないで」
「よかった。それなら、どうしてフィンレー兄さんとエルフたちがヤエ村にいたのか気にならない?」
グレンさんの隣に座りながらノアさんが私に尋ねて来た。
それは知りたい。魔族である私を討伐するために、あそこにいたとは思えない。それなら、大勢がタイミングよくあそこにいた理由を知りたい。
リカルドも私の隣に座って、ノアさんの話を聞きたい様子だった。
「村を出る前に、フィンレー兄様がヤエ村の近くで魔族を見たっていう情報を入手したから仲間を連れて来ていたみたい」
けれど、目撃された魔族は女性ではなく男性だったらしい。私が目撃されていた魔族ではないということはすぐに分かったようだ。でも、魔族の領地が欲しいと言う理由だけで、魔族は誰であろうと討伐するつもりだったらしい。
だから、私が冒険者であっても構わなかったのだ。魔族という理由だけで討伐対象になる。
なんか、冒険者になったばかりのことを思い出す。ついこの間のことなのに、懐かしいと思ってしまう。
ノアさんも同じ考えを持っていたっけ。
「でも、見つからなかったみたい。それで帰ろうとしたら私たちが来たんだってさ」
探していた魔族ではないけれど、魔族は魔族。
もしも、私が討伐されていたとしたらギルドマスターであるルーズさんが何か言ったのだろうか。もしかすると、自分のギルドの冒険者を討伐したからという理由で問題が起こったかもしれないし、何も起こらなかったかもしれない。
分かるはずもない。私がいない未来を見ることなんてできないのだから。
「俺たちも不審者の調査で昨日の夜に見て回ったけれど、不審な男はいなかった」
そうだ。ルーズさんは『不審者の調査』を任せていたんだ。けれど、見て回ってもいなかったということは、すでにこの近くにはいないのかもしれない。
だから、フィンレーさんも見つけられなかったのかもしれない。
不審な男はきっと、魔族の男性だったのだろう。
「それで俺たちは、森に行ったんだけれど、ブルーウルフは見つからなかったよ。もちろん、魔族の姿もね」
森にいなかったということは、倒したブルーウルフで全てだったのだろう。
大きいブルーウルフが群れのリーダーとなり、ヤエ村を襲おうとしたのだろう。ただ、何故襲おうとしたのだろうか。食べ物に困って人を襲おうとしていたのだろうか。
「動物とか他のモンスターは?」
「小動物とか、人を襲わないモンスターとかはいたよ」
ということは、食べ物に困って村を襲おうとしたということはありえないだろう。
だとすると、他に原因があるのだろう。けれど、考えても分かるはずもない。
もしかすると、この近くで目撃されたという魔族に関係しているのかもしれないけれど。
「大きいブルーウルフに関しては、ギルドマスターに調べてもらおう」
レッドコウモリといい、どうして大きい個体がいるのだろうか。今まで目撃されていなかっただけで、本当は存在していたのだろうか。ただ、個体数が少なかったと言われてしまえばそれだけの話。
「パーティメンバーなのに手伝わなくてごめんね」
「何言ってるの! アイが一人でブルーウルフを倒したんだから、十分じゃない! 私たちで森に行って、ブルーウルフがいないか確認して、あんたが休んでいても問題はないの!」
私としては、依頼を受けたのに手伝わずにいる気分だった。けれど、ノアさんからすると、記憶にはなくてもブルーウルフを倒しているのだから、休んでいても問題はないらしい。
少し前のノアさんだったらそんな言葉は出なかったかもしれない。真実を知って、仲間として認めてくれたことが嬉しい。魔族が憎いという感情は消えていないかもしれないけれど、私という存在を認めてくれたことはとても嬉しく感じた。
「それで、二人はこのあとまたルクスの街を離れるの?」
「いや、助っ人の依頼も終わったからこのまま戻るよ」
「久々にお母さんにも会いたいニャ!」
「それじゃあ、これで『青い光』全員集合だね」
「全員集合?」
「あれ、聞いてない? 二人は『青い光』のメンバーだよ」
思い出した。ゲームの記憶を手繰り寄せれば、獣人と鳥人がいた。そっか、それがこの二人か。
たしかに、これで全員だ。
私は聞いていないけれど、二人は私がパーティメンバーだということを聞いていたのだろう。驚いている様子はない。
それともう一つ。シルビアさんのご両親はルクスの街にいるのだろう。何時から街を出ていたのかは分からないけれど、シルビアさんは嬉しそうだった。
あれ、ちょっと待って……。
「あの、シルビアさんって、もしかしてマーシャさんの……」
「お母さんに会ったことあるのニャ!? 元気だったかニャ?」
「元気でしたよ」
「よかったニャ。家族はお母さんしかいニャいから、心配だったんだよ」
家族が母親しかいないということは、父親とは別れたのか、それとも別の理由なのか。詳しく聞くわけにもいかず、嬉しそうに微笑むシルビアさんに相槌を打つだけだった。
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