13.ロック鳥


 廃坑から出て、それが何か分かった。それは私が助けたロック鳥だった。左足に擦り傷があるので間違いはないだろう。

 嘴であの大きいレッドコウモリの羽を銜えている。銜えられているレッドコウモリは暴れることもなく、大人しかった。

 獲物を捕ったのかと思ったけれど、食べる様子はない。

 リカルドたちはロック鳥に警戒しているけれど、私は気にせずに近づいた。


「もしかして、捕まえてくれたの?」

「クルルル」


 まるで猫が喉を鳴らしているような声を発して、レッドコウモリを私の胸に押しつけてきた。

 力が強くて、一歩だけ後ろに下がった。


「捕まえてくれてありがとう」


 受け取り嘴を撫でると、嬉しそうに小さく鳴き目を閉じた。気持ち良さそうに、大人しくしている。

 それを見ていたリカルドが近づいてきた。


「その子はアイの知ってる子なの?」

「さっき蔦に引っかかってるところを助けた子なの」


 広場に戻って来る前のことを話すと、少し安心したようだ。レッドコウモリと戦ったばかりなのに、ロック鳥とも戦わないといけないと思っていたのだろう。

 この子には戦う意思は感じられなかった。

 リカルドにレッドコウモリを渡すと、生きているかの確認をした。どうやらロック鳥が倒してくれたらしく、動く様子はない。魔石は砕かれていなかった。

 リカルドは、レッドコウモリの魔石を砕かずに【無限収納インベントリ】に入れた。ギルドに戻ったとしても【無限収納インベントリ】に入れておけば復活してはいないだろう。

 まだ廃坑内に残っているレッドコウモリの羽を剥ぐ作業が残っている。ロック鳥にお礼を言って廃坑内に戻ることにした。

 戻って行く私たちを見たロック鳥の鳴き声が廃坑内に響いた。



 レッドコウモリが倒れている場所に戻るとすぐに作業を始めた。誰も会話をすることもなく、黙々と作業をする。

 全ての羽を取り終わったのは夕方近くだった。レッドコウモリの数が多くて、羽を取るだけの作業でも腕が痛くなっていた。外に出て薄いオレンジ色の空を見て、そんなに作業していたのかと驚いた。

 羽は私とリカルドの【無限収納インベントリ】に入れている。数は七百近い。三百以上の数がいたのだ。

 ギルドに戻ろうと歩き出すと、椅子の近くに何かがいるのが見えた。

 白いそれをよく見ると、座って目を閉じているロック鳥だった。


「あの子、まだいるけれど……」


 困惑しているノアさんの声が聞こえた。本当はモンスターだから討伐したいだろうけれど、レッドコウモリを捕まえてくれたこともあってできないのだろう。

 やっぱり、足が痛いのかな?

 不安になって駆け足で近づくと、ロック鳥は目を開いた。気配で気がついたのか、それとも足音で気がついたのだろうか。


「クルルル!」


 嬉しそうな声をだして立ち上がると、突然私に向かって走って来た。勢いは弱めてくれたけれど、私の顔はロック鳥の胸に埋まった。

 ふわふわの羽毛を思わず堪能したくなる。


「なつかれているみたいですね」


 ノエさんの声が近くから聞こえた。一歩下がりロック鳥から離れると、リカルドたちがロック鳥に触れていた。ノアさんも両手でロック鳥に触れていたことには驚いた。その顔は満足そうだ。

 この羽毛に触れてみたいと思うのは仕方がないだろう。


「もしかして待っていてくれたの?」

「クァ!」


 レッドコウモリを捕まえてくれたのは、助けてくれたお礼だと思っていたけれど、ここにいるのを見るとそれだけではなかったのかもしれない。

 まだ子供だろうこの子には、できれば自由に生きてほしいのだけれど、この様子を見ると無理なのかもしれない。


「一緒に行くのだとしたら契約をしないといけないのだけれど……」

「クァルルル」


 嬉しそうに鳴く声を聞いて、元々そのつもりだったのだと理解した。オアーゼの時もだったけれど、モンスターの子供は人になつきやすいのだろうか。


「そうね……。それじゃあ、貴方の名前はヴィント。よろしくね、ヴィント」

「クルル」


 頭を擦り付けてくるのでそのまま撫でてあげると、嬉しそうに鳴いた。ミシェルさんから購入した首輪があるけれど、ロック鳥には合わないだろう。

 そういえば、パパから貰った魔道具があったはず。「いつか空を飛ぶモンスターを仲間にしたらつけてあげなさい」と言って私にくれた足輪。【無限収納インベントリ】から取り出して、右足に赤い足輪をつける。

 暴れなかったので簡単につけることができた。これで、このまま街の中を歩くことができる。けれど今はオアーゼと同じで影に入ってもらうことにした。

 ヴィントの大きさから全員を乗せて飛ぶことはまだできない。ロック鳥は大きくなる。いつかは私たちを乗せることができるだろうけれど、今はギリギリ二人乗れるかもしれないというくらいだ。


「今は影の中に入ってもらってもいい?」

「クルル」


 少し不満そうではあったけれど、オアーゼがいることを話すと頷いてくれた。闇魔法を使うと、影の中に入ってくれた。

 同じ影の中にいるのだから会うことはできるだろうと思うのだけれど、もしも影の中で一人だったら、召喚した時に突かれるかもしれない。

 一応突かれる覚悟をしておこう。


「アイはモンスターに好かれやすいのか?」

「魔族だから好かれやすいとかはないかな。今までモンスターの子供でも逃げちゃってたから」


 どうせノアさんに「魔物だから好かれるんでしょ」と言われるだろうからそう言った。

 魔物だから好かれるわけではない。モンスターは基本、魔族であろうと近づこうとしない。だから魔族も近づくことはしない。助けを求めているようだったら手を貸すだけ。

 オアーゼは街の人などの交流があって人になれていたのだろう。ヴィントは元々人に近いところで育っていた可能性がある。人は怖い存在だと知らずに育ってきたから、あんなになついてきたのかもしれない。

 モンスターだったら関係なく討伐してしまうような人に先に見つからなくてよかったと思った。

 蔦に引っかかっている時にそんな人に見つかれば、問答無用で討伐されていただろう。


「さあ、暗くなる前にギルドに戻ろうか」


 薄いオレンジだった空が朱く染まっている。このままだと暗くなってしまう。そうなれば活動するモンスターも多くなる。ここにも夜になったら現れるモンスターがいるかもしれない。

 私たちは急ぎ足でギルドへ向かって歩き出した。

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