戦う者たち
「流星群の夜にドライブか。いいね」
車の助手席に乗っているカズマは、運転中のサツキに声をかけた。
「なに呑気なこと言ってるの?」
サツキは鋭い目つきでカズマを叱責した。
「呑気? こんなロマンチックな夜に、こんな素敵な女性とご一緒できるんだ。浮かれないでどうする?」
「思ってもないこと口にしないで。あなただって心配なんでしょう?」
「一体何が起こるんだ?」
「知らない。思い過ごしだったら、それでいいの」
サツキはライトで車道を照らし、車を走らせる。
向かう先は、スターダストファームだ。
パシュッ!
気の抜けたような、それでいてどこか不吉な音が鳴り、何かがクレセントの体に撃ち込まれた。
翼を生やしたクレセントはビクンと反応し、その場でぐるぐる回り始めた。体に違和感を感じている。
そこへ、バサァッ、と網状のものが飛んできて、クレセントが捕らえられた。クレセントはその中でもがくも、翼が引っかかって身動きがとれていない。
ケンタロウは目の前で何が起きているのか理解できなかった。彼が茫然としているうちに、ヘルメットにゴーグルをつけた黒尽くめの人間たちが放牧場に現われ、ネットに捕らえられているクレセントのほうへ集まっていった。口々に何か言葉を発している。
エンジン音が聴こえ、放牧場近くの森の中からライトが光った。そこから大きなトラックが現われ、柵を薙ぎ倒して放牧場の中へ突っ込んできた。トラックはクレセントの近くで止まり、後部が開いてスロープが敷かれた。そこからフォークリフトが下りてくる。
ヘルメットをした人間たちは、クレセントを押さえつけて木の板に乗せようとしていた。彼らが何をしようとしているのかは、明白だ。
ケンタロウは我に返り、自分でもよくわからない声を発しながら突進していった。クレセントを助けたい。ただその一心で。
ケンタロウはクレセントに負ぶさっている一人に狙いを定め、タックルをかました。そのまま取っ組み合いになって地面を転がったが、他の人間に何か硬いもので後頭部を叩かれ、ケンタロウは芝生の上に倒れた。口に中に土が入り、土壌の味がした。
力が抜け、一瞬意識が遠のきそうになったが、それでも、ケンタロウは地面に横になりながらその光景を目撃した。
大柄な葦毛の馬体が嘶きながら跳躍し、クレセントを囲む人間たちに突撃した。
放牧場の中では、信じ難い光景が広がっていた。
自分の手を離れて駆け出したシルバーライトを追ってきたミドリは、その光景を目の当たりにした。
もうどこからどう理解したらいいのかわからない。とにかくミドリがいの一番に考えたのは、シルバーライトに危険なことをしてもらいたくないということだ。
シルバーライトは妙な格好をした人間たちを相手に格闘している。馬は臆病な動物だ、普通ならそんなことはしない。しかしシルバーライトが普通の馬ではないことは初めて見た時から知っている。
妙な格好をした一人が、シルバーライトに向かって銃身の長いライフルのようなものを構えた。
「やめて!」
ミドリが大声で叫ぶと、それが気になったのか、その人間は構えていたライフルを下げてミドリのほうを向いた。
ネットの中で暴れているクレセントの動きが、少しずつ弱々しくなっていった。そこへフォークリフトが近づき、クレセントが載せられた板を持ち上げた。その近くに、ケンタロウが倒れている。
「ケンちゃん!」
「ミドリちゃん、よせ!」
シゲルの制止を振り切り、ミドリはケンタロウのところへ駆け出した。近くでは妙な格好の人間たちが暴れ回るシルバーライトに手を焼いている。
ミドリはうつ伏せに倒れているケンタロウに駆け寄り、しゃがんでそっと肩に手を置いた。
「ケンちゃん!」
「ミドリ」
ケンタロウは虚ろな目で弱々しく彼女の名を呼んだ。
クレセントを載せたフォークリフトがトラックに入っていった。人間たちはシルバーライトから離れ、トラックに乗り込んでいく。豪快にエンジン音を響かせ、トラックが動き出した。
「ごめん、ミドリ。クレセントを助けてくれ」
ケンタロウからの切実な願いを受け取るミドリだが、一体どうすればいいのかわからない。
その彼女のもとへ、葦毛の馬体が颯爽と駆けつけた。体の側面をミドリに見せつけ、「さあ乗れ」と言わんばかりだ。
「嘘でしょ?」
ミドリは今まで生きてきた中で、最も信じられない気分になった。
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