第2話

お義母さまとお祖母さまの目を盗んで、奥へと忍んでゆく。


そっとのぞき込んだ部屋で、晋太郎さんは畳に寝転がっていた。


藍色の濃い小袖姿に、晩冬の日が降り注ぐ。


寒くはないのかな。


この人は冬でも板戸を開け放ち、何もない土の庭を眺めている。


その人は私に気づくなり、起き上がった。


姿勢を正すと、自分の正面に座るよう勧めてくる。


それに素直に従ってはみたものの、私の顔は間違いなく寒さと緊張で赤らんでいた。


何を言われるのだろう、どう返事を返せばいいのだろう。


そのことだけで頭は一杯なのに、晋太郎さんはじっと目を閉じ、腕を組んだままうつむいている。


「祝言の席での無礼に関しては、お詫びします」


昨日のお出かけのことか、箪笥のことかと意気込んでいたのに、想定外の滑り出しだ。


しかも目の前にいるこの人は、私ではない別の誰かに腹を立てているよう。


「あなたはここに嫁に来たのであって、使用人や奉公人などではありません。それはちゃんと私も分かっております。あなたもそうですよね? あなたはこの家の嫁であって、決して奉公人などではないのです。最初にきちんとお話をしましたよね。あなたはご自分のお好きにしてよいのだと」


沈黙が流れる。


雀が一羽やって来たかと思うと、すぐに飛び去った。


私は仕方なく口を開く。


「えぇ、そうです……」


「あなたは私の目から見ても、嫁としての務めをきちんと果たしております。そのことには、しっかりと感謝しております。あなたは私の立派な嫁です。私に対して、なにか母の言うような不満でもありますか?」


首を横にふる。


この人は一体何に、イライラとしているのだろう。


「そうでしょう。なら何も問題はない。母の心配は全て杞憂です。なにかあれば、いつでもどこでも遠慮なく、私におっしゃってください」


目が合った。


「ではもう結構です」


ふいと向いた横顔に、つい口を挟んだ。


「お話しとは、このことだったのですか?」


その人のまぶたがピクリと動いた。


そのまま私をじっと見つめている。


私はきっと、何かを言わなければならない。

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