飛脚少女、セカイを駆ける! ~イマドキJKは時速100キロで走るんです♪ 仲間たちと公立高から日本最速になる! 金満巨大お嬢様学校には負けないっ!~
なっくる@【愛娘配信】書籍化
第1-1話 最速でアナタの街にお届けします
たん……たん……たん
リズミカルに地面を蹴るローファーの音が、朝の空気に流れていく。
「ほっ……ほっ……ほっ」
短めのスカートから伸びる、スパッツを履いた自分の脚。
適度に筋肉が付いた脚が描く曲線……我ながら美しい。
あたし自慢の両脚は、思い通りの場所にチカラを伝えてくれる。
今日もばっちり絶好調みたいだ。
「お、遥ちゃん! 気を付けて行っといで!」
総菜屋さんのおばちゃんの声に手を上げて答える。
あたしは、新緑香る坂道を一気に下ると、二本の鉄路のガード下をくぐる。
向こうに見えるのは、春の日差しにキラキラと光る瀬戸内海。
まっすぐ海へと伸びる片側一車線の道路。
あたしが生まれる前は、”自動車”と言われる
坂を下ってきた勢いのまま、「飛脚優先」のマークが点滅する信号機を直進すると、大きな高架道路が見えてくる。
「ここまで120秒……今月のベストタイムっ!」
ちらり、と左手のスマートウォッチでタイムを確認したあたしの目の前に立ちはだかる緑の看板。
「←阪神高速3号線 大阪方面」
と書かれた直角に近いカーブを、なるべくスピードを落とさないように身体を傾けて曲がる。
じゃりっという地面を蹴る音が、足元から響く。
あたしはその姿勢のまま、腰に下げたポシェットから、スマホを取り出す。
スタンバイモードを解除すると、いつものアプリは起動状態。
ピッ!
スマホを頭上に掲げ、アプリが通行料金の支払いを完了したことを確認する。
ガコン!
あたしの行く手を阻んでいた、赤と白に塗り分けられたバーが、仕方ないねという感じでゆっくりと上がっていく。
「さあっ、ここからフルスロットルだ~っ!」
ローファーの靴底が、アスファルトの地面を捉える。
ブワッ!
足元から湧き出してくる、何かの波。
足裏に、ソイツの波動を感じた瞬間……。
ぎゅんっ!
あたしの身体が、わずか数秒で
この瞬間は、何度体験してもタマラナイ。
あたしは背中に担いだ荷物をもう一度持ち直すと、青空に向けて叫ぶのだ!
「摩耶山上高校飛脚部、
*** ***
「ふん~ふん~んふふふぅ~♪」
あたしは鼻歌を口ずさみながら、高架になっている高速道路の上を軽快に駆ける。
ちらりとスマートウォッチで確認すると、ただいまの速度は69㎞。
この辺りの制限速度は時速70㎞……追い越し時など、制限速度を一時的に超えるのは違反ではないけれど、今回あたしが走るコースでは、制限速度の超過がトータル30秒以上になるとスコアにペナルティが課せられる。
そのルールを逆手に取れば、30秒までは超えていいわけで……その30秒をどこで使うかが戦略の1つになるのだ。
左手には緑鮮やかな六甲の山々が、右手には広大な埋め立て地に並ぶ真っ白な工場と、海に浮かぶでっかい六甲アイランド。
さわやかな風に吹かれながら見るこの景色が、あたしは大好きだった。
まっすぐに伸びる片側2車線の道路には、あたしと同じ制服姿の高校生や、もう少し年上の私服姿のお兄さんお姉さんが沢山走っている。
あたしみたいに、背中に学校のロゴが入った真四角のバッグを背負っている人もいれば、少しゆっくりなスピードで二輪の人力車や、四輪の荷車を曳いている子もいる。
運ぶものは色々だけど、みんな10代半ば~20代前半の若者たちだ……なぜこうなっているかは、あとで説明するね。
いつの間にか西宮駅のちかくまで来ていたあたしは、少し足を緩めると背後を確認してから左車線に移る。
阪神高速3号線から、吹田・京都方面に伸びる名神高速に乗り換える必要があるからだ。
先日、あまりに走るのが気持ち良すぎて乗り換えを忘れ、目的地まで大回りしてしまったことを思い出す。
あたしは同じ過ちを繰り返さない女なのだ……たぶん。
「おっ……遥、今度は道間違えちゃダメだぞ?」
右車線を疾走していた他校の友人が、いたずらっぽい笑みを浮かべながらあたしを追い抜いていく。
「むぅ、2度は間違えないもん! そっちこそ配送時間に遅れないようにねっ!」
あたしは右手を挙げ、言葉を投げ返すと「←E1名神」と書かれた分岐に入っていく。
曲がりくねった誘導路を通って名神高速に合流する。
さぁて、ここからは目的地まで一直線!
制限速度も100㎞に上がるし、タイム更新のためには速度コントロールとコース取りが重要になる。
「へへっ、いっくぞ~っ!!」
ぐんっ……カッ!
ぐっと踏みしめたアスファルト……地面を蹴ったローファーの靴底から、オレンジ色の粒子が舞う。
ぎゅんっ!
あたしの身体は、一気に時速100㎞近くまで加速される。
そう、あたしは
目指すは京都、日本の誇る古都である。
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