第12話南橘北枳 (なんきつほくさ)
直接話はできなかったが、メールで舞さんには祖母に会いに行くことは説明しておいた。
「まあまあ、遠い所わざわざよう来てくれました」
そういって舞さんのお婆さんは家にあげてくれた。
綺麗な白髪の上品な感じのお婆さんだった。
家は俗に言うところの猫屋敷とまで行かないまでも7匹の猫を飼っていた。
猫が好きなんだろうか。
「で、話には聞いてましたが、何でも舞からのお願いでこちらにこられたとか」
俺たちは居間に通されてお茶をいただいていた。
簡単にだが舞さんからの依頼内容をつたえた。
「あの子がそんなことを。舞は優しい子でしたからね」
「そういえば、舞さんのご両親は」
「あの子の両親はまだ舞が小さいときに亡くなりました。交通事故で」
偶然だろうか両親も交通事故なのか。
「そういったこともあったからかしら、ゼロはね小さい舞と一緒だったんだけどね。ベタベタするわけでもなくいい距離感で近くにいるって感じの子だったわね」
「舞さんが生まれた時からってことはかなり長生きだったんですね」
「そうね20年は超えるかしら、昔ならそう、尻尾が増えて猫又になってる感じかしら」
猫又、長生きしている猫が変化したものだったはずだ。これも妖怪か
「で、ゼロは今?」周りを見渡しても黒猫はいない。
「亡くなったわよ。ちょうど舞が入院する2日ほど前だったかしら、姿を隠すでもなく眠るように亡くなっていたわね」
夫人は悲しそうに目をおとした。これ以上話を聞くのがいたたまれる。
「お墓ありますか?」
「ええ、こちらです」
そう言って家の庭の端っこに案内される
そこには小さいが人と同じ形の墓石が3つおかれてた。名前を見るとみんな猫のようだ。「大家族なんでね私より先にいったのがゼロを入れて3匹もいるのよね私りもそろそろそちらの仲間入りかしら」と遠くを見ている。
「そうね、確かにその日も近いかもね」とシュリー
おいおいシュリー容赦ないなあ。冗談でもなかなかそんなこと言えんぞ
「ふふ海外の方は正直ね」彼女は笑ってスルーしてくれた。
俺は黙って手を合わせる。横で墓を見ていたシュリーが俺に
ここには禍根はなさそうだ、残留思惟が感じれないと、耳打ちしてきた。
肝心のゼロは亡くなっているし、本当に猫又になっているならここにもいないだろう
どうやらこれ以上は情報を集めるのが難しそうだ。俺とシュリーは実家を後にすることにした。
「では、これで」と夫人に挨拶をする。ふと表札に目をやると
「さてどうしますか」
俺とシュリーは帰りの車の中で今後のことを考える。
今のところ収穫ゼロ、そういえば、確か事故現場は舞さんが結婚の挨拶をするために祖母の家に行った帰りだったな、ということは現場も近いのか。
現場に行ってみるか。俺はそうシュリーに提案した。
「そうね、現場100回と言うしね」
いつの時代の刑事ドラマだよ。とつっこみながら俺とシュリーは事故現場に向かった
場所は緩やかなカーブだった。景色としては見晴らしはいい。下を見ると谷底が広がっている。
現場を見て疑問に思ったのが。ブレーキ跡がない。ガードレールもきれいだ。
そしてもう一つの違和感が、人が亡くなっているはずなのに何故か花が一つも添えられていない。
「正直ここが事故現場なのって感じだけど」シュリーも同じ感想のようだ。
何かつかめるかと思ったが逆に何も痕跡がなさすぎだ。
「ここであってるんだけどなあ」
ここまで痕跡が感じられないと事故のことを知るには周囲に聞き込みするぐらいしかない。
俺たちは車に乗り込むと町へ向かうことにした。
川沿いを走っていると中世ヨーロッパの城を模したような建物が数件
なんで川沿いって言うとあれがあったりするんだろうねと一人考えて車を走らせていると
「大我あそこに行ってみたい」
と突然シュリーが言い出した、えっとシュリーさん?あそこがどんなところかご存知で?
「いや知らないから行ってみたい。面白そう」
さて。こうも知らないとは。あそこはねラブホ・・今はファッションホテルって いうのかな。男女の夜の営みをするためのところなんだよ。それでもいきたいの?と説明する。
それを聞くと若干顔を赤らめて何も言わずぬ窓の外を大人しく見ていた。以外にかわいいところもあるなと。
俺たち街にいって聞き込みをしてみた。小さい地方都市だし、事故のことは皆記憶にあるだろうと踏んでいたのだが。結果は全く予想外だった。ほとんどの人が事故があったことを知らないのだ。むしろそんなことがあったの?とこちらに聞いてくるしまつだ、これはいったい。どういうことだ
俺は最終手段として近くの警察署に行って事故の詳細が聞けないかあたってみた。
当然ながら警察が、捜査状況を話してくれるわけもなく事故に関する報告書の類は取り寄せるのに弁護士の協力がいったりする。
取り寄せるための番号ぐらいなら聞けるのでそれらを聞こうとしたのだが、どうも話がおかしい。事故の記録はあるにはあった。
ただこの事故は物件事故報告書しか作られていない。実況見分調書は作成されていないようだった。一般的には死亡事故の場合は実況見分調書が作成されると思うのだが。
人が一人死んでいるのに実況見分がされていない。そんなことがあるのだろうか、聞いてみたが、答えられないの一点張りだった。一般的には死亡事故の場合は実況見分調書が作成されると思うのだが。結局のところ警察でも何もつかめなかった
一体どういうことなんだろうか、疑問に思いつつ警察を後にしようとした時
「御崎舞さんの関係者の方ですか?」
後ろからいきなり声をかけてこられた。見た目30半ばのナイスミドル。ぴしっとスーツを着た男だった。
「いやあ別に関係者じゃないんですがあ」俺は頭をかきかき返事をする。
「じゃあどういった関係の方で」顔を寄せて聞いてくる。
グイグイくるおっさんだな。
「いやいや、あのあなたこそどちら様ですか?」俺は顔をそらしながら話した。
「ああ。申し遅れました。私こういったものです」
差し出された名刺には有名保険会社の名称が。
「井上さん、保険会社の方ですか。警察にいるということはオプってやつですか?」
「ああ、よく言われるんですけどね、オプってのは私立探偵のことでね保険屋やじゃないんですよ。私はサラリーマンの調査員でね」某キートンさんのせいで世の中の保険調査員はオプと呼ぶと思われているとも言っていた。
「んで あれですか御崎さんの事故を調査中と」
「ええ、確かにそうなんですけどね、あなたは御崎さんとはどんな関係で?」
なかなかしつこく確認してくるな。下手な返答をしようものなら彼女の不利益になりかねない。とは言え嘘も思いつかないのである程度ぼかし答えた。
「同業ですかねもっともは私あなたの言うところのオプですが。彼女からは事件の調査を頼まれておりまして」
「ほー、どういった調査をされているのですかな」
さらに顔を近づけてくる。おっさんの顔は近くなると不快だ
「いやー、それは守秘義務があるので、もうしあげれませんなあ」わざと大げさにリアクションをしてみる。
お互い腹の探り合い。このままだと埒が明かないのでふってみる
「いやーしかし事故の検証されてるんですよね?なんで今回実況見分されてないんでしょうかね」
「警察としては一般的な対応でしょう、特に死者が出たわけじゃないですし」井上さんはこともなげにそう返事をした。
うん?今なんつった?死人がでてない?彼女の婚約者は?井上さんは俺の表情を怪訝そうな顔をしていたがしばらくして。
「あなたも御崎さんに同乗者がいたと聞かされたんですね」とぼそりといった。
「私もね普通なら自損事故扱いで終わりなこの件を彼女から婚約者が乗っていたということで食い下がられてましてね。こうして警察まできてるわけです。」
案外このおっさん、喋るな。守秘義務的に問題ないのかとは思うが。
しかし、じゃあ婚約者というのは一体。彼女はなぜそんなことを言ったんだ?
疑問は深まるばかりだった。
人は環境によって良くなることも悪くなることもある
南で育てる橘は北に持っていくと枳になってしまうことから
次の更新予定
思うがままに生きるのはむずかしい 雪と凪 @yukikaze13
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