第12話 災厄は裏宇宙から

 バラの花びらを振りまきながら、その派手な金髪巻き毛男は縛られている三人の下へと歩いていく。その所作は、宇宙海賊とは思えぬほど優雅できらびやかであった。


「三人とも大丈夫か? 怪我はないか?」


 胸ポケットからアーミーナイフを取り出し、三人を縛っていたロープを切っていくオートロック。助けられた三人の瞳孔は、ピンク色の光を放っていた。


「社長!」

「提督!」

「伯爵さま!」


 がっしりと抱き合う男衆を睨みつつ、ララは再びため息をつく。その様子を見たソフィアがオートロックを指さしながら叫んだ。


「さあ提督さん。見島に多数上陸しているあのオバケサザエを回収しなさい。そして、見島を元に戻しなさい。早くしないと、怒っちゃいますよ。痛い目に遭いたいのですか?」


 しかし、オートロックはソフィアの要求を無視し、三人の背を撫でていた。


「ララ様。私、無視……されています」

「そうだな、ソフィア。私たちの水着姿では奴の関心を引く事は出来ぬようだ」

「それはそうですが、やはり超絶グラマーなミサキ総司令やイスカンダルの人のような超絶スリム美女を連れて来た方がよろしいのでしょうか?」

「ソフィア。勘違いするんじゃないぞ。奴は男色家だ。伯爵と名乗っていたが、正式な貴族ではあるまい」

「なるほど、男色家ですか。それでやっと、彼らの態度について納得できました。ではまさか、オートロックはあのグロリア伯爵をリスペクトしていると?」

「そうではないかと思っている。故に、奴の関心を引くことは難しい。こっちには、鉄のクラウスもいなければ、その部下のツェットもいない」

「しかし、そこにいる小柄な男は、腐りかけのバナナが大好物なジェームズ君に似ている気がします」

「そうだな。勝手にやってろとしか言えん。正直、私はもう帰りたい……」

「しかしララ様。それでは何も解決しません」

「わかっている」

「ではどうされますか」

「気が進まんが、ぶん殴る。その辺に渦を巻いているバラの花びらごと吹き飛ばしてやる」


 ララは目を見開いて右手を前に出した。そして手のひらを開き、気合を入れる。


「喰らえ! 色ボケ!」


 ララの右腕から雷光が弾け、爆発する。

 爆風は漂っていた無数の花びらを吹き飛ばし、オートロックと彼の部下は感電して身もだえていた。


「もう一発だ!」


 ララは更に雷撃を放った。その雷撃を受けた三人の作業員は、口から泡を吹きながら失神していた。しかし、オートロックはその豊かな巻き毛を焦がした程度のダメージしか受けていなかった。


「ララ皇女殿下。酷い仕打ちですね。しかし、現状を鑑みるにこれも致し方ないと存じます」

「まだ足りないか? 今度は直接殴ってやろう」

「御冗談を。貴方様のパンチを受けるなんて命が幾つあっても足りませんよ。いや、ちょうど良かったのです。殿下が来てくれて」

「何の話だ?」

「それを今からご説明いたします」


 オートロックは笑顔で一礼した。そして再び、そこからバラの花びらが吹き出し始め、周囲に舞い踊る。


「先ほども紹介させていただいた通り、私は様々な事業を営んでおります。もちろん、この萩市とも懇意にさせていただいております」

「それがどうした」

「先代までは主に海賊業を営んでおりましたが、私の代からはそれが変わったという事でございます」

「なるほど」


 オートロックの説明は続く。海賊業を廃業するにあたり、サザエやアワビ、マグロやマフグの養殖を始め、その他の事業も多角的に経営を始めた。当初は苦労もしたが、現在では軌道に乗っており将来的には更に増収増益が見込める体制となっていた。


 しかし二日前、異変が起きた。


「異変とは何だ」

「裏宇宙からの侵略です。異次元の異次元とも言うべき裏宇宙から、地球で言えば、ゾウとタコを掛け合わせたような大型の生物がこの空間を侵略して来たのです」

「何だと?」

「その大型の生物はあのサザエが好物なようで、とりあえず見島へと退避させたのです。多少ご迷惑をかけたとは思いますが、高級食材でもありますし」

「あの女たちは何だ?」

「元々はこの付近を荒らしまわっていた倭寇に囚われていた者たちです。それを先代までは囲っていたのです。異次元の桃源郷とも言うべき楽園世界に」

「ほほう」

「そこは相当に居心地が良いようで、彼女達は自らの家へ帰ろうとしませんでした。先代までは、まあ、あの娘たちの相手をですね、せっせとこなしていたのですが、私は、ほら、女性には興味が無くて、お陰様で非常に残念ですが、彼女達は欲求不満が溜まっていたのです。もちろん、どうにかして差し上げようと策を練っていた所なのですが、あのゾウタコの侵攻に遭いSOSを発信したところ、戦艦長門様に救助していただいた次第です」

「これで全ての話につじつまが合った」


 ララはオートロックの説明に頷いていた。


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