第9話 異次元へのゲート

 淡く輝く黄金の軌跡を残しつつ、ララは僅か数秒で5000メートルの距離を移動していた。眼前には、ほぼ球形の巨大なレーダーが設置してある。航空自衛隊の見島分屯基地は、防空の為の重要な目の役割を担っている施設である。周囲には例の〝オバケサザエ〟が幾つも転がっており、彩雲改二のビーム攻撃によってイイ感じに茹で上がっていた。

 ララはその一体に近寄ってから、蓋を引っぺがした。そしてぼそりと呟く。


「これは良い香りがするな。高級品の風格があるぞ」


 オバケサザエが食用になるかどうか、興味津々といった風に匂いを嗅いでいた。そしてララは、たすき掛けにしている小さなポーチからスマホを取り出して発信した。


「ソフィア、聞こえるか?」

「はい。こちらソフィアでございます」

「ハイペリオンは椿様と正蔵に任せて降りてこい。私と一緒に宇宙海賊の調査だ」

「了解しました」


 オバケサザエに対し、ビーム攻撃を続けているハイペリオンの腰の部分のハッチが開き、中から金属製アンドロイドのソフィアが飛び出してきた。


 陽光の下、キラキラと輝く艶やかな金属製のボディを持つソフィアだが、一丁前に白いビキニを身に着けていた。

 ソフィアは両手に光剣の柄を持っていた。その一つをララに渡す。


「ソフィア。基地周辺における空間の歪みを探せ。オバケサザエがこの山頂に集中して出現したからには、付近に必ず異次元へと繋がるゲートがあるはずだ」

「了解しました。索敵モードに移行します」


 ソフィアは両眼を点滅させつつ周囲をうかがう。ララはさらに指示を出す。


「黒猫。聞こえるか?」

「はい」

「彩雲改二はヘリオスへと変形せよ。ラグナTRXと合流、本村防衛にあたれ」

「了解」

「正蔵はここを死守しろ」

「わかりました」


 ハイペリオンはその背から長剣を抜いた。刀身が10メートルもある長大な実剣だが、ハイペリオンは苦も無くそれを振る。その刀身は赤く輝き、その上でゆらゆらと陽炎が揺れていた。


「気をつけろ。山火事を出すなよ」

「わかってます」


 ハイペリオンはその長剣を振り、オバケサザエを次々と屠っていく。朱色のティルトローター機、彩雲改二は降下しつつ変形し、15メートルクラスの人型機動兵器へ姿を変えた。額部分からビーム攻撃をし、右腕から伸びる光剣がオバケサザエを切り裂いていく。ヘリオスの支援に、麓の自衛隊の陣地から歓声が上がった。


 その歓声を背に、ララとソフィアは基地ゲートへと向かう。ゲートと周辺のフェンスは、既にオバケサザエに破壊されており、ララたちは苦も無く基地内部へと入ることができた。そしてララがソフィアに問う。


「ソフィア。この辺りではないか?」

「肯定。11時の方向に極端な歪みが存在します」


 ソフィアが指さす方向の地面に、大きな窪みができていた。その窪みは直径が10メートル以上あり、その中で黒い何かが渦を巻いていた。その渦の中から、例のオバケサザエが数体、のそりのそりと這い出てくる。出てきたオバケサザエは、ハイペリオンのビームで瞬間的に茹で上がって動かなくなる。


「アレか」

「はい」

「行くぞ」

「お待ちください、ララ様」


 渦巻く黒い何かへと進もうとするララをソフィアが呼び止めた。


「ララ様。そこが異次元へとつながるゲートであると推測されますが、今、そこへ進むことは推奨しません。私たちは現在、戦力を分散しすぎています。ハイペリオンとヘリオスはここ見島に上陸中。私たちが中へと入れば、戦艦長門は無防備なまま見島沖に取り残されます。この瞬間を敵が見逃すとは思えないのです」


 ララはソフィアの言葉に頷きつつも、それを無視して黒い渦巻の中へと飛び込もうとした。しかし、ソフィアはララの前に立ち塞がった。

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