はてしなき六月のハネムーントラブル

ふしみ士郎

1章

第1話 オレにとってそれは間抜けな言葉に聞こえる

 

 ジューンブライドってアメリカの言葉だけど、オレにとってそれは間抜けな言葉に聞こえる。日本で六月は梅雨の時期だし、ジメジメしていいことなんて何一つもない。ま、唯一あげるとしたらアジサイがキレイってくらいのものだ。それでもオレが昔付き合っていた女の子は「アジサイってナメクジいそう。」とか言って、近所でやっていたアジサイ祭りにも行ってくれなかった。そんなナメクジみたいな情けない思い出も六月にはつきまとう。だからかジューンブライドって響きがピンとこないのは、オレだけだろうか?


 いや誰もオレの間の抜けた話しなんて聞きたがらないだろう。そもそもそんなものを長い文章にまとめてもさぞかし退屈で紙の無駄遣いだろう。だからこれ以上書き進むのは止めようかと何度か思ったけど、書かないといけない理由がある。それは、妻の耳が聞こえなくなったからだ。


 妻の話しをしよう。彼女はフォトグラファーで、オレなんて及ばないくらいアーティスティックな才能にあふれていた。前途洋々とは彼女のためにあるような言葉だった。オレが彼女と出会ったとき、そんな才能の片鱗は外見にも表れていた。つまり魅力的だったってこと。オレはすぐに恋に落ちたけど、彼女は中々振り向いてくれなかった。だからか、彼女を手に入れたときは「大切にしよう。」なんて殊勝に思ったもんだ。もちろんそれは今も継続中ではあるのだけど、ここだけの話し。


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