第6話 三つのメカと戦う者
アラスカの基地に集められた三つのメカには、赤い飛行タイプを【フェニックス】。青い潜水タイプを【リバイアサン】。黄色い陸上タイプを【ベヒモス】と、それぞれに神話の生物名がコードネームとして付けられた。
どれも世界を滅ぼす神獣なのは、関係者も危険性を感じているからに他ならない。
そして、そのパイロット達は、同じくアラスカの基地内で、戦術学科教育の休憩時間に、談話室でソファで身体を伸ばしていた。
「くそっ!フェニックスの野郎、絶対に薬を盛ってやがるぜ。最近はタバコが不味くて仕方がねぇや」
フェニックスのパイロットで米軍戦闘機乗りのジャック・ジャクソンである。
彼は、火をつけたタバコを、二口くらいで灰皿へとねじ込んだ。
「今まで好きなだけタバコが吸えた事を幸運に思うのだな。望んで軍人になったのだろう?寿命を伸ばすのも仕事だとわきまえろ」
ベヒモスのパイロットでロシアの労働者ビルビッチ・イワノフは、収容所の様な生活にイラついていた。
「文句を言ってもしょうがないだろう?地球を守るって決めちゃったんだから。でも戦術学科って意味あるの?ダルいんだけど」
リバイアサンのパイロットで日本のダイビングインストラクターの岬・慎太郎は、持ち込んだ日本のアニメを見ながらボヤく。
「戦術教育は、他の部隊と連携する時に、御互いのセオリーを認識しておかないと同士討ちになる恐れがあるから必要なんだよ」
唯一の軍人であるジャックが、慎太郎に答えた。
「でも俺達の戦闘って、既にセオリーどうのって言ってる状況じゃ無くないか?」
かつて、三機のマシンを交えて合同演習をしてみたが、他の兵器や部隊が足手まといにしかならなかったのだ。
「それは、シンタローが持ち込んだアニメのせいだろう。スタンドアローンで命令も規律も無い戦闘なんて、誰が責任を取るんだ?迷惑でしかないだろう」
「そう言うが、超絶パワーを持ったアメリカンヒーローも同じだろう」
「確かにアメリカンヒーローは無法者だな。ロシアなら銃殺ものだ」
フェニックス達の戦闘能力やパターンは、慎太郎の持ち込んだアニメの影響を受けているのは間違いない。
そして、それを実現するだけの能力も持っていた。
正直、それ以上の事もできるらしいが、あくまでパイロットの【道具】である以上、パイロットに扱えない、理解できない行為はしないらしい。
物理的な制限も有るのだそうだ。
「しかし、今に合体とかするんじゃないのか?色も三色だし、実際に変形もしているしな」
マシンの構造は、幾つかの独立した内臓の様な構造物同士を、マイクロマシンの様な物が繋ぎ合わせて、骨格や筋肉、皮膚といったような役割を果たしているらしい。
よって、形を変える事は勿論、時間をかけれは新たなる器官や兵器を作る事も可能だという。
「良いねぇ!動物形体から合体して人型になってパワーアップなんて王道じゃないか」
「パイロットが三人ともオッサンなのも王道なのか?」
三人に笑いが溢れる。
慎太郎が見ていたアニメを、ジャック達も目には入っていた。
詳しい内容などは知らないが、毎回行われる合体シーンなどは刷り込まれていたのだろう。
「操縦は、俺に任せろよ」
「いや、複数の合体パターンがあって、メインパイロットが変わるのも有るから、その方が戦闘バリエーションが増えるよ」
「ジャパンアニメは難し過ぎる」
三人三様の認識で、騒いでいると、談話室に基地の事務官がやって来た。
「皆さんに報告があります。この度、国連で皆さんの存在が公式に認められ、先日の様な怪物が飛来した場合、世界各国へと駆除に行く事が決定致しました。正式な辞令は後日になりますが、仮称は【アースガード】となっています。これは変更の可能性もあります」
三人に、太陽系規模の流星現象と、先日の怪物の関連性。
国連で発表された【宇宙人の落し物】に対する建て前などが、それぞれの母国語で書かれた書類で手渡された。
「まぁ、こう言う建て前になるだろうね。『宇宙人が』なんて真顔で言えないからな」
「まだまだ来るかも知れないのか?でも【アースガード】ってダサいな。もっと良いネーミング無いのかよ」
「パイロットの個人情報とかは、どこまで公表されるんだ?店の宣伝になるなら頑張るぜ」
ビルビッチ、ジャック、慎太郎で、それぞれのヤル気が違う。
まぁ、初回が簡単に終わった上に、フェニックス達が強化を進めていた点から予想されていた事なので、既にネガティブな反応は出なかった。
「でも、これで堂々と演習ができるし、家族にも連絡がとれる様になるんじゃないのか?」
彼等は、もう半年近く、この基地に隔離されているのだった。
特にビルビッチは妻子持ちだ。
国からの保護は有るだろうが、家族が足りないと言うのは、精神面でも負担となる。
「それぞれに飛行能力も備わった訳だから、そろそろ本国待機にさせて欲しいものだ」
「あぁ、その方が有りがたいな」
アラスカに集まってから、マシン同士で情報交換したらしく、得意分野はあるにしろ、今では全てのマシンが飛行と潜水、走行の能力を有している。
軍用通信は勿論、マシン同士での通信なら、衛星を使わずに地球の反対側とでも可能なのは、既に実験済みだ。
「あ~、ラーメンが喰いたい」
「妻の手料理が、ここまで恋しいとは」
「俺、食堂でハンバーガーを食ってくるわ」
二人の蹴りが、ジャックの背中に直撃した。
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世間では、天から飛来した生物を【怪物】ではなく【怪獣】と呼んでいた。
全世界のテレビでは、その怪獣を倒せる力として、【アースガード】が紹介され、話題になっている。
軍隊が一匹倒すのにも手を焼く怪獣を、一瞬で数十匹も倒すアースガードの映像は、ジャックの基地の兵が撮影した物を、現在のフェニックスと合成した物だ。
基本配置は、ロシア、日本、アメリカと分散しており、音速で飛行して救助に向かう旨が報道されていた。
報道管制が敷かれている為に、テレビでは流れないが、ネットの世界では【女神教】が騒がれていた。
隕石落下や怪獣の被害を受けた怪我人などを癒す不思議な存在が現れたと、もっぱらの噂だ。
複数の地域に現れた彼女達は、白人系の金髪美女で、彼女達に触られると傷の回復が早まるとの噂が広がっていたのだ。
誰が言うともなく、彼女達は【女神】と呼ばれた。
古今東西、この様な存在には取り巻きが集り、一つの宗教団体の形をとっていく。
国連が、先の怪獣を倒した【アースガード】を公表した直後、これらの団体は各地で、大々的に啓蒙活動を始めだした。
「あの様な兵器こそ、諸悪の根源。災いは、あの兵器を滅ぼす為にやって来るのだ」
先に、流星群が流れていた事など、一般市民は知らない。
怪物の出現と、【宇宙人の落し物】の前後関係は、誰も知らない。
公的発表では『アースガードの開発が先で、怪獣の出現が後』となっているので、女神達の話の方が信憑性があると受け止める者も居る。
だが、それらは少数派であり、国や軍を動かすには及ばなかった。
人間は、助けを求めて、すがる時には好意的でも、怪我などが治ると離れていってしまうものだ。
女神達の集団は、大変に人の入れ替わりが激しかった。
「それでは女神様、ゆっくり御休みなさい」
仮眠するからと、人払いをした個室で、女神と呼ばれる女が、溜め息をついてから静かに呟いた。
「やはり、この地で反対勢力を作るのは難しいか!」
民衆は移り気体質で、政府は物証をあげなくては話すらできない。
少なくとも、あの【アースガード】とかが、住民を助けた事実がある以上は、彼女の言葉は響かないだろう。
「厄介な住民だ。いっその事、地上を殲滅すべきか?いや、それでも奴等は逃げて生き残るだろう。縛り付けておく為にも、住民は残しておかなくては」
いつもの天使の様な表情のまま、口にする内容はドス黒かった。
警視庁では政府からの要請で、アースガードに反対する【女神教】の取り締まりを強化していた。
教義事態や活動は合法だが、教祖の女の身元が不明なので密入国者として逮捕を繰り返している。
多数の信者と、拠点によって匿われていて発見は困難だが、発見さえできれば逮捕は容易だ。
ただ、協力者は『行く宛の無い外国人を一時的に保護しただけ』と言い張って、罰する事ができない。
更には逮捕しても、留置施設から
「これで、何十回目だ?」
警察側にも諦めムードが漂う。
まさか彼等が、地球外からの異邦人を相手にしているとは、夢にも思わなかっただろうから。
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