第4話 あの、近所迷惑ですよ?

 さてさて、冒険者をまた目指すとして、こうなったらやる事は一つ。

 すらすら~っと『あるもの』を書いて、バカの帰りを待つ。



「おかえりなさい、フォイル。晩御飯の準備はもうできてるわ」

 気持ちいつもより丁寧に接してあげる。


「ただいま、んでありがとさん」


「それで、後で話したいことがあるんだけどいい?」


「ん?改まってなんだ?まぁいいや。後で俺の部屋においで」



 そして、夕食後。

 コンコン。


「入るねー」


「あ、はーい。で、話ってなんだい?」


「あの、私ここを辞めようと思うの」

 私はフォイルの自室の机に先ほど書いていた『辞表』をそっと置く。


 少し間が空いて、

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 フォイルの絶叫が屋敷中に響いた。


 あの、夜中だし、うるさい。


「どうしましたか!お坊ちゃま!!何か魔物でも……ってリーンさん」

 フォイルの声を聞きつけてセバスチャンが駆けつけてきたみたい。


「あ、セバスチャン、丁度良かったわ」


「な、なんですか?」


「私、ここを辞めようと思うの」


 また少し間が空いて、

「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」


 フォイルと同じような叫び声が屋敷中に響いた。

 一体あんな細い体のどこからそんな声を出しているんだろう、不思議。


 はぁ、うるさい。


──────


 少しすると二人とも落ち着いたみたいで、いろいろ聞いてきた。

「リ、リーンどうしていきなり辞めるなんて言うんだい!?」


「そ、そうですよ、リーンさん!どうしてこんな急に」


 まぁ、やっぱそこだよねー。


「さて、フォイル。私が前々から辞めたいって言ってたのは知ってるよね?」

 多少の威圧を込めてフォイルに問う。


「うん、それは聞いてたね」


「原因はアンタがセクハラしたせいで辞めちゃった従業員の穴を私一人で埋めるのに疲れたからなんだけどね!」

 ちょっと睨むのも忘れずに言う。


「あの、それは……ごめんなさい」


「まぁ、それは良いのですよ。私にセクハラすることは無かったし、穴を埋める分、給料も上げてくれたからね」

「だから仕方なーく残ってあげていたわけですよ」


「そ、そうだよね?俺も残って欲しいから出来るだけ望みは聞いたもん」


「なら尚更、リーンさんが辞める理由見当たらないのですが……」


 フォイルもセバスチャンも大体同じことを思ってるみたいだね。

 んースキル進化のことを言ってもいいのかな?

 また騒がれそうだしなぁ。

 んーでも言ったほうが良いよね。


「では、今から言うことはあまり広めないでください。これが条件です。」

「あ、無暗に広めたらこの屋敷ごと潰しますからね」


「はい、言いません、誓います……」

 やっぱり力関係おかしくない?敬語なんて最初っから無かったかのようにタメ口だし。と思ったフォイルだったが今はそれを口に出さないでいた。

 理由は単純。彼女の目が本気マジだったから。それだけの事である。



「じゃあ話すわね」

「二人は私のスキルについては知っているよね?」


「≪生活魔法≫でしょ?もちろんさ。俺はそのスキルを買ってリーンを雇ったんだから」

「私もリーンさんのスキルには毎日助けられておりまする」


 そう思ってるなら日頃から感謝してくれてもいいと思うんだよね、フォイル。

 セバスチャンはいつもお礼してくれるから良いんだけど。


「それでそのスキルがどうしたって言うんだい?」


「実はね、その私のスキル≪生活魔法≫が進化したのよ」



「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」」


 三度絶叫が屋敷に響いた。

 しかも二人分。


 あの、うるさい。

 それにそろそろ近所迷惑ですよ?それ。

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