出不精のニート魔王は、外に出ない理由がある~働かないんじゃない、働けないんだ~

羽消しゴム

第1話

「おい遠魔、お前そろそろ働いたらどうだ」

「私達のお金も無限じゃないのよ?」


今日の朝、固く閉じたドアの前で両親が俺に働くように言ってきた。

あぁ、確かに世間一般では俺のように外に出ずに、親の脛を齧るばかりのろくでなしの事をニートと呼ぶのだろう。


だが──だが聞いてほしい。

俺だって働きたい。

ここまで俺の事を大切に育ててくれた両親には感謝しているからだ。


しかし、俺の仕事は自宅警備員。

俺が外に出てしまったら、何もかもが終わる。


ふざけてる?俺もそう思う。

誰が思うんだよ。

俺ん家の下が──ダンジョンだなんて。


大事な事だから二度言おう、俺の仕事は自宅警備員。

ダンジョンを攻略しつつ、ダンジョンの中に存在するモンスター達が外に出ないようにする事だ。


モンスターと言うのは、RPGで良く見る形態のゴブリンやオークや、ドラゴンだっている。

正直、前世の魔王の知識がなければ危ないところだった。

因みに魔王の知識があるだけで、記憶はない。だから、前世の名前とか顔とか性別は全く覚えていないのだ。


「あ、あー、ごめん父さんと母さん!今ゲームしてんだ。だからあ、後にしてくれないか・・・?今手が離せないんだ」


なんとかそう嘯いて誤魔化す。


「全くお前という奴はッ!!」

「もういい加減になさい!」


滅茶苦茶怒られた。とはいえこれはしょうがない。

でもわざわざ外に出て謝る余裕なんてない。


「ブモォォォ!!!」


「ッ!?な、なんだ今の声は!」

「貴方一体何してるの!?」


くっそコイツなんて時に・・・。


「あ、あぁ、ゲーム音だよ!いやぁゲーム楽しいなぁ!あ、あはは!」


「ブモォォォ!!!ブ、ブモォォォ!!!」


「近所迷惑だ!全く・・・」

「ふざけるのも大概にしなさい!全く・・・」


そう言い残すと、両親は音を立てながらトントントンと階段を下っていった。


「ブモォ!ブモォォォ!」


「あぁもう煩いんだよおまえぇ!」


ドゴンと蹴りを一発、さっきからブモブモと煩い声の主──オークに向けて放つ。


ダンジョンの底から這い上がってきたのか・・・はたまた今先程、両親が来る前にバチバチとやり合っていたからか、とてもボロボロだ。


思ったよりも強くて戦いが長引いてしまった結果、両親が来るまでに間に合わなかったため、今は口に布を被せて喋れないようにしている──が、あまり意味を成していないようだ。


「お前のせいで、また俺への信頼が下がったじゃねぇか・・・」


「ブモォ・・・ブ、ブモォ!ブモブモ!」


「一応言っとくが、防音魔法を張ってあるから助けを求めても無駄だぞ」


変に暴れられたり、大きな声を出されても困るので、何度も呻くオークにそう告げる。

まぁ、防音魔法なんて張ってないんだけどな。


「それじゃ・・・さよな「おにぃ一人で何してるの!?ま、またエッチなゲームでもしてたんでしょ!へんたい!」ええぇ!?ご、誤解だぞ!?」


「うそ!エッチな声が聞こえたもん!」


どうやら、オークの呻き声を聞き付けて、妹が上がってきたようだった。

というか何で俺がエッチなゲームやってることしって───い、いや、今は考えるのはよそう。


俺の今の最優先事項は、早急に自分のへんたいというレッテルを拭いさること。

・・・ど、どうすればいいんだろうか?


「な、何か言ったらどうなの!?」


「・・・兄ちゃんは新たな可能性に挑戦しようとだな・・・」


「捕まってきていいよ」


「あ、はい」


兄の威厳なんてものはなかった。

この後言いたい放題言われ、満足したのか高校に行く時間なのか、妹は階段を掛け降りていった。


只でさえ妹に嫌われてる俺からすれば、もっと嫌われる原因を作りやがったオーク犯人をぶん殴りたくて堪らない。


「ブモォ・・・」


ニチャアと、口を覆う布越しでも分かる程喜色に歪む口元。目はふっ、と馬鹿にしているように、細められている。


あ、駄目だ。


「グッバイ」


「ブ!?ブモォォォォォォォ!!!!?」


この日、俺の部屋から大音声の呻き声が聞こえ、近所で噂になってしまうのはまた別のお話。

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