カップラーメンの避難所

sensingrock

カップラーメンの避難所

一人で生きていれば賞味期限切れくらい年に何度かは遭遇する。


けれどもさすがに今日発掘した賞味期限切れはショックだった。


キッチンの天袋の奥で見つかったカップラーメンが賞味期限切れだった。


一日二日ではなく二か月も前の賞味期限だった。


でもこれが最後の食糧。食べるしかない。


この食欲じゃ食べないダイエットもできるはず。


けど、何となく何か口に入れないとまずい気がした。




食料品を翌日配送してくれるAmazonプライムに入っているのに、食料品の注文をさぼっていた。


もう何もかもがめんどくさい。


出前館やウーバーイーツでお店のご飯を注文すればまだ健康的かもしれない。


けど、それすらめんどくさい。


置き配をしてもらえば顔を合わせなくて済む。


けど、手ごろな台を探して玄関に置くのもめんどくさい。


インターフォンに出てマンションのエントランスキーを開けるのがめんどくさい。


自衛隊の人が言ってたらしいけど、カップラーメンは普通の水でも食べられる。


お湯を沸かさなくていいから、災害時でも食べられるんだって。




水で戻したカップラーメンを、シンク前で立って食べている。


味は悪くなかった。


人前でやることじゃないけど、どうせ私の生活なんか誰も見ない。


「家にカップラーメンしかないのは女としてダメ。」


お笑い芸人がテレビで言ってたけど、そいつはぶっさいくだった。


あんた、笑わせる人じゃなくて笑われる対象じゃん。


「いつ結婚するの?」


帰省するたびにお母さんに言われるけど、結婚とか恋愛とかめんどくさい。


既婚者の友達、お母さんみたいに愚痴ばっかりで疲れた顔してる。


ぶっさいくな癖に女にケチをつけるお笑い芸人みたいなのが男のマジョリティだ。


あんなのに合わせるのはもう疲れた。


「素爪派じゃなくて、ネイルサボってるだけだよ?」


性悪ネイリストの営業トークじゃねーんだよ、女子会だとウケると思ってんのかよ?


あんたはネイル以外どこもかわいくもきれいでもないじゃん。




賞味期限切れのカップラーメンは私だ。


行き遅れで、からからの生活を送る女。


しかもそれは普通の水で食べる。


情熱もなく、クールでもなく、ぬるい生活。


でも別にいいんだ。


だってもう疲れた。


女性活用との呼び声で男並みに働いているから。


独身の男がずぼらな暮らしを送るなら、独身の男並みに働く私も同じ暮らしを送る。


なんで女だけ女を捨ててない暮らしを送らなきゃいけないの?




もう疲れた。


色んなことがめんどくさい。


何もしたくない。


何も成し遂げてないのに、カップラーメンを食べている。


身体はただ怠い、心はきっと危険信号。


生活は嵐だ。


身体と心を振り回す。


どこに避難すればいい?


カップラーメンに聞いてみた。

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