虫喰みのレイナ
芋洋館
プロローグ
故郷のお母様へ、この度は元気の便りと筆を執らせていただきました。
旅に出て早2年、私はこれといった怪我も病気もなく日々を楽しく過ごしています。
普段手紙を書かずに物だけを送り続けていた私ですが、キリがよいということで奮発した次第です。決して面倒だったからというわけではありません。
世間を知るようにと旅に出されて各地を周り、見知らぬ何かに触れるのはとても楽しい思いです。森にいたころの私にもっと早く森を出ろと教えてあげたいくらい。
現在は少し腰を落ち着けようと辺境アルマートの近くにある森を拓いて拠点を築きました。
どうして街のなかではなく、わざわざ森を拓いたのかという疑問もあるとお思いでしょうが、これには理由があります。あともちろんのことですが、許可は取ってありますのでご心配なく。
理由はなんと、私の飼っている虫たちが原因なのです! ビックリですよね? まさか街の中で虫を飼ってはいけないと言われるなんて思いませんでした。
各地を旅しているときは持ち運べる虫以外は外で遊ばせていたのでこのような問題に直面することはなかったのです。持ち運んでいる虫にもちょっとばかり嫌な顔をされていたりしたのですが、問題になるほどではなかったのです。
はい。そういうわけでようやく拠点を完成させて落ち着くとこができたので報告も兼ねて、という流れです。もし手紙を書くつもりならこの拠点へ送ってください。
森を出て様々な街や都市を巡り落ち着いた場所が森の近くとは、面白いですね?
これからは拠点を中心に新しいことをしていきたいと思います。
故郷に帰るのは……もう数年、数十年あとになるかもしれません。なので、私の後輩が近くにくるようでしたら是非寄るように言っておいてください。精一杯おもてなしをさせていただきます。
レイナより。
「よし、こんな感じかな!」
書き終えた手紙は折りたたみ、傍にいた綺麗な空色にツルっとした羽を持つ丸い虫たちの足に紐で括り付ける。
見た目も可愛くて役に立つ空虫ちゃんは私の生活に無くてはならない存在であるといっても過言ではない。
ただし名前はない。いくら可愛くても数が多くて一匹ずつ名前をつけるのが大変であるため、名付けは最初のころ諦めた。
「じゃあ空虫ちゃんたち、お願いね」
私の飼う虫の中で最も出番の多い虫である空虫ちゃんは、窓を開けて手を振れば何を言わずとも編隊を組んで飛び立っていく。
空虫ちゃんたちが空の彼方に飛んでいくのを見届けたら、ウンと背を伸ばして机の上を片付けてから着替え始める。
朝一に手紙を書くものではなかったかなと思いながらも、着替え終えたらパンを食べながら表へ出る。
「さて。今日も一日頑張りますかー」
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