Namenlos ー名もなき旅人ー
@Tagiris
荒野の土
「ねえ■■■君、将来何になりたい?」
「えぇっと、◇◇◇になりたい!!」
「◇◇◇になりたいんだぁ~」
「ねえぇ、それより今晩のご飯なに?」
「そうねぇ。シチューでもしよっか」
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俺は夢を見ていた。この少年は俺なのか?
この少年は何になりたかったのだろうか。父親みたいに偉大になりたかったのだろうか?それとも、学者になって世紀の発見をしたかったのだろうか。
いずれにしても、『大災厄』と俺が呼んでいるものに殺されてしまった「らしい」。
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旅に出てから、何度昇ったか分からない朝日が荒野を照らす。俺はテントから出て身支度をする。『大災厄』の後、平和ボケした人類は、大災厄の後に生まれた《獣》に為すすべなく、生態系のトップを奪われた。
幸い俺がいる荒野は獣の動きが大人しくテントを張ることができた。もっとも、テントの周りに置かれている4本のトーチのお陰でもある。
このトーチは、トーチとトーチで囲った範囲内に限り、敵意がなく、弱い獣には狙われない安全領域を作り出すことが出来る。
だが、欠点がある。燃費が兎にも角にも悪い。一晩で燃料を半分は消費してしまう。幸い、旅に出るときに燃料は大量に用意して持ち込んでいる。暫くは安心して眠ることはできそうだ。
さて、旅立つ前に現在の装備を確認する。服装は黒のインナーに上から長袖の砂色のジャケットを羽織り、下は黒のロングパンツを履いている。
ベルトにはすぐに取り出したいものが入ってるポーチを6個と護身用の刀を着けている。この時代遅れの刀でも、旅に出る前に厳しい修練を乗り越えたから、そこそこ扱える。銃はからっきしダメだ。銃口が的に付くか付かないかの距離じゃないと当たらない。後は、キューブを入れるためのバックパックがある。
さてと、朝食を摂り、出発するか。
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朝食を取り出すべく、食事のポーチから立方体の物質、キューブを出し、コンソールを開く。今日のメニューは旅立つ前の『試練』で手に入れた握り飯と、茶だ。
このキューブは種類によって差はあるが、物・をデータ化して保存することができる。
データ化しているため、キューブの中は保存状態が良く、腐りにくい。
勿論、食べ物だけではなく、武器や先ほどのトーチも収納できる。性能と大きさによってデータ量は決まっているようだ。
ただ、この便利なキューブを手に入れるためには命を懸けて獣を狩らないといけない。
さて、握り飯を口に含み、茶で流し込む。握り飯の米は一粒一粒が柔らかく、食べ易い。中身は、狩った獣がカニだったせいか、カニの切り身だ。茶は香りがよく、程良い苦味と、すっきりとした甘味が口一杯に広がる。もっと安全だったら、茶葉から入れたいものだ。
トーチとテントをキューブの中に入れ、出発する。早いところ、安心できる所に着きたいものだ。もっとも、この世界に安全が残されているかわからないが。
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俺が一つに留まらないで旅をするのは、訳がある。***を探すためだ。『大災厄』を生き延びることができたが、***を失ってしまった。
***は何かはわからない。***を想像しても靄もやがかかって、はっきりとわからない。それとなく、漠然としたナニカだ。
***の正体を探るためにも俺は***を探し出さないといけない。師匠曰く、
「一番最初に大災厄が起こった地を目指せばいいにゃ。各地に、その地にたどり着くヒントがある筈にゃ」
漠然としているが、俺はそのヒントがある場所に向かっている。だが、視界にはそれらしいものはないが、歩みを止めなければ、見えてくる筈だ。
しばらく進むと獣と正面でバッタリ遭遇した。四足歩行で俺の腰くらいの大きさの生き物だった。驚くべきことに尻尾や顔や首はなく、胴体の先端に口らしき筒があるだけだ。さらに、全身が土でできているではないか。
俺は刀の柄に手を伸ばし、いつでも抜けるように警戒する。が、向こうは襲う気はないようで、素通りした。俺は気を抜き、警戒を解いた。
『一瞬の気の緩みで命を落とす』
師匠の言葉を思い出した。慢心を捨てなければ、すぐに地面に転がってしまう。よく、修行のときに言われたものだ。
今ここで、奴の背中を襲うことができたが、そうはしなかった。なぜなら、戦う理由がないからだ。現状、燃料と食料などの物資は『試練』のお陰で満ちている。また、戦ってどちらかの血が流れると、他の強い獣が寄ってくる可能性がある。
「はぁ...」
幸いなことか、この荒野には先ほどの土の塊しか獣はいない。とくに、襲ってくるようなことはなく、戦闘をしないで済んだ。
この土の塊はなんだ。なんで襲ってこないのか。などを考えながら、暫く歩みを進めると、今まで大人しかった土の塊の獣が一匹こちらを振り向いて口をパクパクし始めた。
悪寒が走った。とっさに警戒モードに入り、柄に手を伸ばす。来るっ...!!
先ほどの獣がこちらに向かって走ってきた!
「ふぅ...」
息を深く吐き、心を落ち着かせる。集中だ。相手の行動を見切るのだ。
俺を食べようと獣は真っすぐに走ってくる。
「せいっ...!!」
俺は刀を勢いよく抜き、獣の胴体目掛けて、刃を走らせる。
獣の体は俺に届くことなく、口から臀部にかけて真っ二つに切り裂かれ、バたりと地面に倒れた。
「ふぅ...」
俺は、再度息を吐き、整える。刀はまだ鞘に戻さない。周りにいる土獣が襲いかかってくる可能性がまだあるからだ。
『けたけたけたけたけたけた』
不気味な笑い声が荒野に響き渡る。声の主は、周りにいる土の獣からだ。
同族が死んだのに何がおかしいのか? 笑い声も相まって、不気味だ。
いち早くこの場から離れた方がいいと脳が警戒信号をだしている。
俺は、それに従い、駆け足で前に進もうとした。が、次の瞬間
「おっと。」
危ないな。
何かが俺の後に落下し、激しい地鳴りを引き起こし、危うくバランスを崩すところだった。目の前が何故か暗くなっている。
俺は恐る恐る後を振り返った。そこには…
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