さまよう夏の霊──向こう岸に行った、父と僕──

べてぃ

第1話 湖上の回想

<現在、プラットホーム上は、東讃大学人力飛行機研究会とうさんだいがくじんりきひこうきけんきゅうかい S‐tec。パイロットは……>

 

 離陸に向け翼の最終チェックを終えた僕は、機体後方に退避した。ぎらぎらと照りつける夏の太陽に焼かれながら、ふと、10 年前の夏を思い出した。父さんに連れられて、初めてここに来た夏の日のことだ。あの日もこんなに暑かったな。父さん、一生懸命解説してたっけ。


「行きまーす、2、1、Go!」


 その声で、僕は現実に引き戻された。プロペラが回り、機体が加速していった。約10 メートル進んで、機体はふっと姿を消した。

 失速したか。そんな不安が脳裏をよぎった瞬間、プラットホームの向こうに、白い翼が姿を現した。


 ああ、そうか。10 年前に言っていたのは、このことだったんだ。20 年以上前、父さんが見た光景はこれだったんだ……

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