嵐のような方でした。
一夜開けた土曜日のお昼。
私達は四国に帰る北大路さんの見送りに、駅にやって来ていました。
荷物とおみやげを手に、改札口の前に立つ北大路さんと、最後の挨拶を交わしています。
「もう帰らなきゃいけないなんて、残念。知世ちゃんとも、もっとお話したかったのに」
「は、はあ……ワタシモ、カナシイデス」
しょんぼりとした様子の北大路さん。心なしか、ポニーテールまで元気なく項垂れているように見えます。
しかし元気がなくても、その顔は美少女そのもの。
黒いニットベストに、チェック柄のスカートというコーデも、まるっきり女子のそれ。
スタイルも抜群。
葉月君から正体を聞いた今でも、男の子だと言うことが信じられません。
「まあまたいつでも遊びに来なよ。今度は三人で、どこか遊びに行こう。トモもいいよね」
「は、はい。もちろんです」
まあ男の子だと言うことには驚きましたけど、だからと言って何かが変わるというわけではありません。
からかわれてたのは少し気になりますけど、案外いい人そうですし。もし次に会った時は、私ももっと仲良くなりたいですね。
すると北大路さんは、そっと私に近づいてきました。
「ごめんね、色々意地悪しちゃって。風音が好きになったって子に、興味があったからつい」
「もういいですよ。そのかわり、もう隠し事はやめてくださいね」
北大路さんのことですから、他にも一つや二つくらい巨大な爆弾を持っていたとしても不思議ではありません。
けど、当の本人は警戒する私を見て、あははと笑います。
「分かった分かった。もう何も隠さないから。けど、ならこれも言っておかなくちゃいけないかな。知世ちゃん、ちょっと耳かして」
なんでしょう?
言われるがままに耳を差し出すと、小さく囁いてくる。
「実はあたしも、ちょっとだけ知世ちゃんのことが好きになっちゃったかも♡」
えっ? …………はい────っ!?
くすぐったい吐息が耳にかかり、発せられた言葉に目を白黒させる。
すると北大路さんは耳から口を離し、そのまま頬へと移動させて……。
チュッ!
頬に柔らかな、唇の感触がありました。
さすが北大路さん。リップでも使っているのか、唇のケアも万全で、とても柔らかな感じ。
そしてそれが、いわゆる接吻と言われる行為だということを遅れて理解したその時。
「ルゥゥゥゥカァァァァッ! トモに何キスしてんだよー!」
葉月君の怒りの声が、駅構内に響き渡りました。
えっ? えっ?
い、今のやっぱり、せ、せせせ、接吻だったんですか!?
き、北大路さんが私に? そ、そそそ、そんな。嘘ですー!
一方北大路さんは悪びれる様子もなく「キャハハ」と笑いながら、逃げるように改札口をくぐって行きます。
「ごめんね風音ー、知世ちゃんのキスは貰ったよー。それじゃあ二人とも、またねー♡」
「バカ野郎ー! 何がまたねだー、二度と来るんじゃなーい! 塩撒いてやるー!」
葉月君は怒り狂って、周囲の人は何事かと足を止めていますけど、私はそれどころじゃありませんでした。
さっきの唇の感触がまだ頬に残っていて、全身がゆでダコのように真っ赤に熱くなる。
「せ……せ……接吻をされてしまいました」
「大丈夫、頬だからセーフ。だいたい頬キスくらい、酔っ払った師匠に何度もされてるじゃない」
「さ、悟里さんは女性だからいいのです。だ、男子からは、あれが初めてだったんですよ!」
「なんだって!? くそー、最初は俺がやるはずだったのに。おのれルカー!」
頭の中はもうグチャグチャ。
北大路さん、最後の最後に、とんでもないことをやってくれましたよ。
はたして今後また彼女……いいえ、彼と会った時、私はどんな態度を取れば良いのでしょう?
北大路さん。本当にあの方は、嵐のような方でした。
『やって来たライバル?』おしまい。
この後オマケがあります。
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