出せない答え

「あっはっはっ。なんだ、告白されただけたったのかー。まああたしは、最初から信じていたけどねー」


 豪快に笑う悟里さん。

 結局あの後、葉月君と何があったかを全部話すことになっちゃいました。


 ううっ、恥ずかしいです。

 こうなったのも、葉月君がベラベラ喋っちゃったからですけど、等の本人はここにはいません。

 悟里さんに蹴られて、今は医務室で寝込んでいます。


 すると葉月君を医務室に運んだ前園さんが戻ってきて、ため息をつきした。


「火村さん、少しは手加減してくださいよ。葉月君、完全にのびちゃってます。あの様子じゃ、今日はもう仕事は無理ですね」

「むう、手加減を誤ったか。風音には、悪いことしたねえ」

「まったくです。勘違いで殺されかけるなんて、可哀想すぎますって」


 葉月君、白目を向いて床に倒れちゃいましたっけ。

 首があり得ない方向に曲がっていましたから、私ももうダメかと思いましたよ。

 それに少しだけ、幽体が体から出ちゃってたような。きっと本当に、危ないところだったのでしょう。

 と言うか、そもそも。


「あのー、さっきから気になっていたのですけど、悟里さんはどうして葉月君を蹴ったのですか? いったいどんな勘違いをしたので……」

「「知世ちゃんは知らなくていいの!」」


 そ、そんな口を揃えて言わなくても。


「そんなことより、告白よ告白。知世ちゃんは風音に、なんて返事をするつもり?」

「ひょっとして、祓い屋カップル誕生? だったらお祝いしないと!」

「いいねえ。里の皆にも知らせてあげないと!」


 悟里さんも前園さんも、勝手に盛り上がっていますけど。

 ま、待ってください。カ、カカカ、カップルだなんて、そんな。


「へ、返事はまだ決めてません。まだ気持ちの整理がついてないって言うか。葉月君、今までそんな素振り全く見せてなかったのに、急に好きだなんて言われて。簡単に答えなんて出せませんよ」

「へ、まだその段階? けど君達がギクシャクしだしてから、もう一週間くらい経ってるんだけど」

「それに知世ちゃん、葉月君の気持ちに全く気づいてなかったんですね。葉月君は隠してるつもりなんてなくて、私達にもバレバレだったのに」


 ちょっと、揃ってため息をつかないでください! 

 私としては本当に、寝耳に水だったんですから。


「だいたい、どうしてそんなに迷ってるの? 風音のこと嫌いじゃないならとりあえず付き合ってみて、気に入らなかったらポイしちゃえばいいじゃない」

「火村さん言い方! けど私も、付き合うことには賛成かな。案外お似合いだと思うけど」


 わ、私と葉月君がお似合い?

 そんなこと、今まで考えたこともありませんでしたよ。


「そう言われても、誰かと付き合ったことなんてないですし。私にはそう言うのは、まだ早い気がして」

「そんなこと言ってると、いつまで経っても誰とも付き合えないよ。まあ恋愛だけが全てじゃないけどさ、せっかく風音が気持ちを伝えてくれたんだ。もっとちゃんと向き合わないと、さすがにアイツが可哀想だよ」


 悟里さんの言葉に、ガツンと頭を殴られたようなショックを受ける。


 そ、その通りです。

 まだ早いから付き合えないなんて、考えるのを放棄しているのと同じですよね。

 ちゃんと葉月君のことを考えないと失礼。そう分かってはいるのですけど……。


「や、やっぱりまだ無理です。だ、だって葉月君、意地悪でガサツで無神経なんですもの。付き合っても、上手くいくかどうか」

「わー、酷い言われよう。けどそれならそれで、とっととふっちゃったら?」


 ふるって、私が葉月君をですか?

 告白を断ると言うことは、そういうことになるのですけど、それはそれで躊躇ってしまいます。


 ああ、私のバカ。優柔不断。

 付き合うことも断ることもできずに、悩むことしかできませんよ。


「まあ、そう急いで答えを出すこともないか。どうせ相手は風音だし、放置プレイされても平気だろう」

「葉月君、長年知世ちゃんに相手にされなかったから、メンタルだけは鍛えられていますからねえ」


 二人の話を聞いてると、何だか自分がすごい極悪人みたいに思えてきます。

 こ、これはできるだけ早く返事をしないと。


 とはいえ、そう簡単に決められたら、苦労しないのですけどね。



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