やって来たライバル?

葉月君の災難

 ──冗談なんかじゃないよ。俺、子供の頃からずっと、トモのことが好きだから。


 水原知世16歳。現在、人生最大のピンチを迎えています。

 先日祓い屋仲間の男の子、葉月風音君に、こ、こここここ、告白をされてしまったのです。


 子供の頃から好きだって言われてしまいましたけど、その事に全く気づいていなかった私は心臓バクバク。目はグルグル。頭は沸騰寸前で、おかしくなってしまいそう。


 こんな状態では葉月君とまともに話せるはずもなく、告白された次の日から。


「トモ、おはよー。一緒に学校行こー」

「キョ、今日ハ一人デ行キマスー!」


「トモ、お昼一緒にどう?」

「シ、椎名サント約束ガアルカラ無理デスー!」


「お祓いの仕事の件だけど……」

「葉月君ニオ任セシマス!」


 こんな感じで、彼のことを避けまくっているのです。


 だ、だって仕方がないじゃないですか。告白されましたけど、何て答えればいいか分からないから返事は保留にしてもらっています。

 こんな状態で、どう接しろと言うのですか!


 だけど自分でも、この状況がよくないことくらいわかっています。

 葉月君は祓い屋のパートナー。このままでは仕事に支障をきたしてしまいますもの。

 今日だって一緒に事務所に行くのを避けて、私は後からやって来たのですが、祓い屋事務所の前に立ちながら、ドアを開けられずにいる。


 葉月君は、もう既に来ているはず。でも中に入って顔を会わせるのは、やっぱり気まずいです。


 けど、これじゃあダメですよね。

 私は祓い屋で、葉月君はお仕事のパートナーなんですから。

 気まずいからと言って避けて仕事にならないなんて、プロ失格です。


 気合いを入れながら、大きく深呼吸。

 だ、大丈夫。葉月君がいても、今まで通り接すれば良いんです。


 覚悟を決めて、ドアを開くと……。


「風音、白状しろ! お前は知世ちゃんに、いったい何をしたー!」


 バタン!


 開けたドアを、再び閉じました。

 な、何だったんでしょう? 鬼の形相をした悟里さんが、葉月君に壁ドンしながら何かを問い詰めていたように見えましたけど。


 恐る恐る、今度は少しだけドアを開いて、隙間から中を覗いてみると、どうやら見間違えではなかったみたいです。

 悟里さんは口から火でも吹きそうな勢いで葉月君を追い詰めています。


「待った待った待った! 師匠、俺は何もしてないって!」

「嘘をつくな! 知世ちゃん最近、アンタのこと避けまくってるじゃない。何もなくてあんなになるかー!」

「それはまあ。確かに何かはあったけど……」


 えっ? えっ?

 ひょっとしてこれって、私のせいですか?

 私が葉月君を避けているせいで悟里さん、葉月君にいじめられたとでも勘違いしているのでしょうか?


「認めたね。何をしたのか、とっとと吐け! スカートをめくったか! それとも、お風呂を覗いたか!」

「俺はのび太くんか! そんな小学生みたいなイタズラしてないって!」

「ならそれ以上のセクハラをしたってことか! 許せん、あたしが成敗してくれるー!」

「なんでセクハラしたのが前提になってるのさ!?」


 だけど葉月君のそんな叫びも、悟里さんは聞いてはくれません。

 他の職員の人達もどうしたらいいか分からないみたいで、遠巻きにオロオロしています。


 い、いけません。葉月君は何も悪くないのに、私が変な態度を取ってしまったせいで怒られるなんて。


「待ってください! 私の話を聞いてくださーい!」

「トモ!」

「知世ちゃん!」


 慌ててドアを開いて入ると、中にいた人達が一斉にこっちを見る。

 そして悟里さんは私を見るなり、駆け寄ってきました。


「知世ちゃん、正直に答えて。風音にいったい何をされたの?」

「いえ、あの。されたことはされましたけど、悟里さんが思っているような事とは違って、ちょっと告白を……」


 って、待ってください。

 告白されたことを、勝手にベラベラ喋って良いのでしょうか?


 良いわけありません。自分の気持ちを他人にバラされるなんて、気持ちの良いものではありませんもの。

 喋ったりしたら、葉月君に悪いです。


 そ、それにですよ。告白されたって言うのは、まず私が恥ずかしいですよ!

 思い出しただけで身体中が熱くなってきて、今にも倒れてしまいそうですー!


「……い、言えません」

「えっ?」

「ごめんなさい。けど、あ、あんなこと、絶対に言えません。お、お願いです。何も聞かないでください」


 今にも爆発しそうなくらい顔を真っ赤にして、ガクガクと体を震わせる。

 目には涙がにじんできて、恥ずかしさのあまり両手で顔を覆う。


 無理無理無理無理! 告白されたなんて知られたら、恥ずかしくて気絶してしまいます!


 すると悟里さんはそんな私をじっと見つめながら、静かに言う。


「知世ちゃん。それは風音に、言えないような事をされたってこと?」

「は、はい……」

「それは、その……恥ずかしい目にあわされたってこと?」

「はい……死んでしまいそうなくらい」

「──っ! 知世ちゃん、こんなに泣いて。辛かったね」


 悟里さん何を思ったのか、ガバッと抱き締めてきます。

 でもあの、別に辛くはなかったですよ。返事はできずにいるものの、好きって言われたのは悪いことではありませんし。

 それに、泣いてもいません。恥ずかしさのあまり、手で顔を覆ってただけです。


 けど訂正する前に悟里さんは手を放して、クルリと葉月君に向き直る。

 そして。


「風音ーっ! そこに直れーっ!」


 えっ? さ、悟里さん。何をそんなに怒っているのですか!?

 すると葉月君も慌てたように、急いで弁明します。


「ま、待った師匠! 絶対に何か勘違いしてるでしょう!」

「黙れ! アンタに言えないような事をされてすっごく苦しかったって、知世ちゃん言ってるじゃないか!」


 ま、まあ確かに、胸は苦しくなりましたけど。

 けど何かおかしいです。葉月君の言う通り、悟里さん何か勘違いしていませんか!?


 けど、火がついた悟里さんはもう止められません。

 葉月君に向かって、勢いよく足を振り上げました。


「風音ぇ、死ねぇっ!」

「わーっ、待った待った! 誤解だから! 俺はトモに、好きだって告白しただけで……」

「スーパー除霊キーック!」

「うぎゃああああぁぁぁぁっ!」


 ああ、言っちゃいました。

 葉月君のバカー! 人が必死に隠してたのに、どうして言っちゃうんですか!


 けど、葉月君を責める気にはなれません。

 悟里さんのキックを食らって宙を舞う彼が、あまりに可哀想でしたから。


 す、凄く痛そう。

 首があり得ない方向に曲がっちゃってますけど、葉月君生きてますよね?

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