悪夢の終わり

 最後に見た霧子さんの苦悶の表情は、当分忘れられそうにありません。

 呆けているとメイさん、そして葉月君が近づいてくる。


「終わったね」

「はい。って、葉月君は大丈夫なんですか!?」


 霧子さんを倒したからといって、葉月君の受けた傷が治るわけではなく。彼の胸は依然、血で真っ赤に染まっている。

 すると思い出したように、メイさんが慌て出します。


「そ、そうでした。は、早く救急車呼ばないと。ええと、イチイチキュウって、何番でしたっけ?」


 どうやら大分パニックになっているみたい。

 すると次の瞬間、突如世界がグニャリと歪みました。


「ひぇっ!? な、な、なにこれ?」

「これは? もしかして、夢が終わろうとしているのかも」


 元々この世界は、妖術で引きずり込まれた夢の中。術者である霧子さんが倒されたのなら、いつまでも保っていられるはずがありません。

 夜の商店街は渦を巻くように捻れていき、世界が崩壊していく。


「これで悪夢も終わりだね。きっと俺の怪我も、目が覚めたら治ってるよ」

「ほ、本当ですか? 良かった~」


 メイさんはホッとしていますけど、本当に大丈夫でしょうか。

 さすがに無傷ということはないでしょうから、戻ったらちゃんと休んでもらわないといけませんね。


「それにしても。メイちゃん、よく霧子にビシッと言えたね。あれは聞いてて、胸がスッとしたよ」

「あ、それ私も思いました。霧子さんも、明らかに同様していましたよね。おかげで冷静さを欠いてくれて、助かりました」


 あれがあったから、最後霧子さんは激昂して襲いかかってきたわけですけど、もしも冷静だったら、きっともっと苦戦していたでしょう。


「ありがとうございます」と頭を下げると、メイさんは照れたようにパタパタと手を振る。


「そんな、あたしはちょっとムカついたから言っただけですよ。けど、やっぱりちょっと可哀想。霧子さんも友達だったり、知世さんみたいにいざという時守ってくれる彼氏がいたりしたら、ああはならなかったんだろうし」

「そうですね……って、ちょ、ちょっと待ってください。か、彼氏っていったい、誰のことを言ってるんですか!?」


 慌てて聞きましたけど、さすがに答えが分からないわけではありません。

 チラリと葉月君に視線を移すと、彼は胸を押さえた前屈みのまま、苦笑いを浮かべる。


「彼氏じゃないよ。俺達、付き合っていないもの」

「え、そうだったんですか? ごめんなさい、あたしてっきり……」

「けど、トモのことは好きだよ。仲間としてではなく、女の子としてね」


 ふえっ!?


 爆弾発言に、「きゃー」と顔を赤らめるメイさん。

 な、ななな、何を言っているんですか!? へ、変な冗談は止めてくださ……。


 だけど注意する間もなく景色がさらに大きく歪んで、猛烈な眠気が襲ってくる。

 夢の中で眠くなるなんて変な感じですけど、おそらくいよいよ元の世界に戻るということなのでしょう。

 けど、まだ訂正できていません!


 焦りと恥ずかしさで頭の中がぐちゃぐちゃになる中、意識がだんだん遠退いていく。


 目が覚めたら葉月君に、ふざけないでって……言って……おかないと……。

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