第56話
「オレたちは、二人で超一流の戦律師になるんだッ! だから、二人で、生き残るに決まってんだろォっ!!」
亀裂が広がっていく。オレの腕が、砕ける──
「さっさと消えろぉおおおおおおおおおおおおお!!」
──ぼてっ。
「うぎゃ」「きゃっ」
オレと
見渡すと、そこは
伝説級怪異の姿は、どこにもない。
「…………やったぞ、凜火」
オレたちで、伝説級怪異を討伐した。怪異災害を、未然に防いだ。
「やりましたね。アオハさま」
凜火がオレを抱きしめる。彼女の身体の柔らかさが、その体温が、今は狂おしいほどに愛おしく感じる。
凜火が、耳元で囁いた。
「これで、約束も守ってもらえますね……」
「……約束?」
「忘れたとは言わせませんよ、アオハさまが言ったんじゃないですか。キス以上のことをしてくれるって」
「…………あーっ……」あーっ……
「あれは、その、なんだ……」
「嘘を、ついたのですか?」ずももも……と黒いオーラを放ち、凜火がオレに迫る。
「いや、そのっ、嘘じゃなくて! えと、その……、あっ!」
閃いた。
オレはとっさに手を凜火の頭に伸ばす。
「よしよし、えらいえらい」
そう言いながら、オレは凜火の頭を撫でた。ぽかんとする凜火。
オレは知ってるんだ! 異性にアタマ撫でられるのはキスと同じかそれ以上の行為なんだろ!? ……だ、だめですかね……?
「…………ふひゃぁ」
空気が抜けるような声を出して、凜火がへなへなと座り込んだ。おっ? 効果はバツグンか!?
「アオハさまからのご褒美。アオハさまからのごほーび、ごほーび! ふーっ! ふひっ、ふひひっ!」
……あっ、間違えたかなー?
「あの……凜火、さん?」
「アオハさまからアプローチ頂いたということは、これはもう据え膳ですね!? わかりました! 四神楽流、四神楽凜火。イキます!」
がばっ! と制服の前をはだけて、凜火が襲いかかってくる。あぁ、さよならオレの純潔……
「なぁーにやってるのよ」バコっ。「あはぁん♡」
後ろから頭を叩かれた凜火が悶え、叩いたイリスがぎょっとした顔で仰け反る。「なによ、今の……?」
「イリス! 無事か!? そして助けて!」
現れたイリスにオレは助けを求めた。凜火を引き剥がしたイリスの後ろから、土まみれになった恵とさわりも姿を現す。
「アオハちゃん……! よかった、二人とも無事で……」オレは貞操の危機でしたけどね?
「恵とさわりも、無事で良かった。あの甲冑、倒したのか?」
イリスが首を横に振る。
「急に動きを止めたの。ひょっとしたらと思って降りてみたら……やったのね、あなたたち」
「あぁ、凜火のおかげだ。イリス、恵、さわり。みんなも、ありがとう」
「……ま、アタシの庭で起きたことナ。手を貸すのは当然にゃろ」だからオマエの庭じゃねーにゃろ。
そのとき、《賢者の石》の神殿に続く階段から甲高い銃声が一発、轟いた。
「……!? 今のは」
凜火がオレを抱き寄せ臨戦状態に入った。他の面々も緊張感に表情を強張らせる。
さわりの耳が、ぴくっ、と動いた。
何者かが階段を降りてくる。コツコツ、と足音が近づいてくる。
果たして、その人物は大太刀を携えた
全員が冷や汗を流して胸をなで下ろす。
「理事長……
オレの問いかけに、石榴は無言で握っていた手を開く。根元から折れ、血に染まった鬼の角が転がり落ちた。
静まりかえった地下空間を見渡して、石榴が口を開く。
「よくやりましたね。流石です」
凜火が先に立ち上がり、手を差し出す。
「さ、帰りましょう。アオハさま」
オレは凜火の手を取り、
──ぱきんっ
「……え?」
オレの右腕が砕け散った。
ガクン、と膝から力が抜ける。腕を突くこともできず、オレは倒れ込む。
「アオハさまっ! 身体が……!」
オレを抱き留めた凜火が、サッと青ざめる。
無事だった左手を見て、オレは気付く。身体が透けている。
「あぁ、くそ……さっきの引き潮に、魔力持ってかれたんだ……」
オレの身体を構成する魔力の大部分を、《門》を破壊した際に発生した魔力の流れに吸い上げられてしまった。凜火の超巨大版みたいな奴だな、くそ……
空気に溶けていくように、オレの身体が徐々に透明に近づいてく。反対に身体は重くなり、眠気に似た闇が襲いかかってきた。
マズい、このままじゃ……
「凜火、凜火聞いてくれ」
青ざめ慌てる凜火を、オレは呼び止める。
「オレはずっと、むかしオレを助けてくれた「超一流の戦律師」に会いたかった。会って、感謝したかったんだ」
ようやく、オレは願いを叶えることができる。
「あのときオレを助けてくれて、オレに夢を与えてくれて、ありがとう、凜火」
オレを抱きしめたまま、凜火は首をブンブン振る。涙で顔がぐしゃぐしゃだ。そんな顔すんなよ。せっかく可愛い顔なんだからさ。
「凜火に助けられて、戦律師にもなれた。オレたちは、伝説級怪異を倒した。たくさんの人の命を守った。瓦斯鬼を越えたんだ。もう、超一流、だろ?」
凜火が流す温かい涙が頬に降りかかる。
「まだです、まだ超一流にはほど遠いですよ……!」
「わりぃ、オレはこれで超一流って認めてくれ」
「認めません、認めませんよ! 二人で超一流を目指すって、さっき言ったばかりじゃないですか! こんなの、こんな終わり方認めませんよっ! いや、行かないで……! ひとりにしないで! アオハっ!」
もうほとんど溶けて、感覚の薄らいだ手で、オレは凜火の髪を撫でる。
「ありがと。オレのために泣いてくれて。ごめん、オレ──」
凜火の柔らかい唇が、オレの言葉を遮った。
涙に濡れる凜火の瞳が、すぐ目の前にある。涙の雫が、オレの頬に滴る。
彼女の体温を唇に感じながら、オレの意識は闇に溶けていった。
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