死にたがりエルフと呼ばれた少女と

霜月南雲

第1話 旅に出る理由

「…………、久しぶり。この間、墓参りに来たのが…もう5年も前になるのか。ボクも中々に忙しくてね」


ベルラン、と呼ばれる世界のキニャール帝国、首都ワトー。そこの旧市街にある、ちょっと寂れた公園でボク、アレクシス・マリー・ノリアンは近くで買ったコーヒー片手に、ベンチに座って、虚空に向かって喋りかけていた。墓参りとは言ったけれども、そこに墓らしきものはなにもない。

何も、疲れては居ないし、憑かれてもいない。いや、疲れてはいるか。でも、憑かれてはいないよ。

ボクがとても若かった頃、ここで、ちょっとした事件があった。それもボクが被害者で、墓参り相手が、凶悪な犯罪者で加害者の。それでもボクは被害者、だったという認識はない。ただ、加害者であったエルフの女の人と友達になりたくて近づいていったら、偶々事件になっちゃったというだけ、だと思っている。

いや、ほんとボクの行動は周りの人たちにしてみればいい迷惑だと思うし、助けに来てくれた人達には感謝しかない。でも、彼女はボクには優しかったから、彼女が死んだ時はとても悲しかった。今でも、当時を思い出すと泣きそうになる。ただ、どうしても泣けないけれども、ね。

だから時たま、暇を見ては墓参りと称してここに来ていた。


「子供たち?ああ、うん。皆独り立ちしたよ。やっと、さ。……旦那様が死んでからは一人で育ててきたからね、ちょっと疲れたかな」


なんて、言った所で答えは帰ってこないけれど。これは本当にボクの自己満足でしかない。そうやって寂しさを紛らわしている所はある。

こうやって喋っても、答えは、あの時から帰ってこないし、もしかしたら彼女の魂はもうここにはないかもしれない。…あったなら声ぐらい聞こえそうなものだけれども。まあ、それがないということははじめから居なかったのかもしれない。

それでも。こうやって墓参りと称してここに来るのは、ボクの中で何も解決していないからなんだと思う。だから寂しいとは思うし、彼女の死に対して、泣けてはいない。死体は見つかってないし、どこかで、とは思っているけれど、どこかで生きてるって話も聞いてはいないから、それはないんだとはわかってはいる。わかってはいるけれど、どこかでそうであってほしいと思ってるボクもいて。

ただ、今回は。


「それでね。ボク、今回で貴方への墓参りは一区切りつけようと思うんだ。この街を離れようかな、って。知人とか友達も皆、ボクを置いていってしまったからね。こういう時、エルフであるのはとても悲しい、と思うよ。子供たちはいるけれど、それはそれ」


ふふ、と笑ってそんな事をいって。コーヒーを一息に飲んだ。結局最後まで、彼女の死に対して泣けずに。最後の最後まで、認められずに。

いつまでも、縋るわけにも行かないから。


「え、旅のお供?いるさ。でも教えてあーげない。声ぐらい聞かせてくれれば紹介したかもしれないけどね。…貴方がそういう人じゃないのは分かってるし覚えてるから。だから、うん。教えない」


ふふ、と笑って。ベンチから立ち上がる。そして、入り口に向かって歩いていき、そこで振り返ってから。


「さよなら。ボクのーーーーーーボクの大切なーーーーー」


そう言って、ぺこり、と頭を下げて、公園をでた。

そこから、すぐ近くにある駐車場に待たせてあった車に乗り込んだ。



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死にたがりエルフと呼ばれた少女と 霜月南雲 @simotuki222

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